研究課題/領域番号 |
16K20196
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研究機関 | 高知大学 |
研究代表者 |
牛若 昂志 高知大学, 医学部附属病院, 助教 (60614386)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 子宮内膜症 / 腹腔内免疫環境 / タイムラプス |
研究実績の概要 |
【研究の目的について】子宮内膜症(以下、内膜症)では、腹腔内の免疫応答低下が注目されている。従来、NK活性の低下が取り上げられてきたが、NK細胞の標的細胞への到達や、他の免疫担当細胞への遊走能については明らかではない。本研究は、腹腔免疫で中心的なNK細胞の遊走能検討を目的としている。腹腔鏡下手術で得た腹腔貯留液を、微小培養系でタイムラプス撮影し、細胞の移動距離とスピードを測定し遊走能とした。遊走能測定により、内膜症における腹腔免疫能低下の一端を解明することが可能と考える。更に、遊走能低下が全身の流血中でも起こるかは重要な問題でその評価も行っている。末梢血で差を認めた場合、内膜症発症予測や新診断法となる可能性がある。 【研究実施計画について】1)資料の採取:当科において婦人科良性疾患で腹腔鏡下手術を受ける患者からインフォームド・コンセントを得て末梢血と腹腔貯留液を採取。2)腹腔細胞を腹腔貯留液上清で懸濁し、微小培養環境内の動態をタイムラプスで撮像し移動距離とスピードを測定。3)末梢血中免疫細胞の遊走能:末梢血よりNK細胞を分離し同様に測定。4)内膜症群と非内膜症群で推計学的有意差を検討。 【成果】全て34例の検体をえたが、不適切例を除き、内膜症群9例、非内膜症群の15例の腹腔内貯留液と末梢血の検体を得ることができた。これまでの解析から、1.腹腔内貯留液では、①内膜症群においてNK細胞の走化性低下を認め、②マクロファージとリンパ球は、群間に有意差を認めなかった。2.末梢血では、いずれの細胞も群間差を認めなかった。 【意義】内膜症群の腹腔NK細胞の遊走能低下が明らかとなった。これは、標的細胞への到達する能力低下と他の免疫担当細胞とのコンタクトの低下を示唆する。今後、内膜症治療薬や免疫賦活薬が遊走能を改善し得るかを検討する。また、遊走能低下の原因を更に検討する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
現在までに、全34例の検体を得たが、不適切例を除き、内膜症群9例、非内膜症群の15例の計24例から、腹腔内貯留液と末梢血の検体を得ることができた。これらの検体について、含有される免疫細胞を24時間微小培養環境内でタイムラプス観察を行った。症例数により、有意差検定が可能となっている。 これまでの解析から、1.腹腔内貯留液の検討では、①内膜症群においてNK細胞の走化性低下を認めた。②マクロファージとリンパ球は、群間に有意差を認めなかった。 2.末梢血では、いずれの細胞にも群間に有意差を認めていない。 今後研究期間中に手術症例は10例ほど予定されているため、さらに検討が進むと予想される。これまでの結果については、昨年開催された「the 13th World Congress on Endometriosis」で発表した。現在、さらに詳細な検討を追加して学術論文として作成中である。
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今後の研究の推進方策 |
現在までに、内膜症群9例、非内膜症群の15群の計24例のサンプルを得ることができ、腹腔NK細胞の遊走能低下が、内膜症の発症機序やその病態に関与している可能性を示すことが出来た。本研究期間中には、手術患者はさらに10例ほど追加される予定であるため、今後も引き続き検討していく。これまでの検討により、内膜症群では、腹腔内のNK細胞の遊走能が低下していることが明らかとなった。これは、標的細胞への到達する能力の低下や、他の免疫担当細胞とのコンタクトが十分でないことを示唆している。細胞傷害能の低下と併せて、腹腔内の免疫応答はとくにNK細胞を中心に低下していることが伺える。この現象はこれまでに全く報告のない新しい分野と考える。今後は、現行で使用されている内膜症治療薬について、またその他の免疫賦活薬などが遊走能を改善し得るかなど、治療との関連で検討する必要性がある。また、現状では末梢血に有意な差を認めていないが、血液検査で内膜症のハイリスクを抽出できるかを更に検討していく予定である。さらに、遊走能低下の原因に関してもIL-2をはじめとしたサイトカインの関与に関して検討を予定している。それにより有効な治療法の同定にもつながると考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
(理由)本研究は高知大学医学部産科婦人科教室内で行っている。主な研究資料はヒト由来の血液と腹水である。研究に必要な小培養環境・CCDカメラなどのバイオイメージング装置・解析ソフト等は概ね備わっており、経費の主な用途としては、消耗品となる。細胞分離のためのキットや染色抗体・試薬・試験管・ピペットなどのプラスチック器具・ガラス器具・採取用の検体容器などの購入が必要となる。本年度は、消耗品の出費が少なかった。また情報交換や研究成果を学会などで発表するために必要な出張経費、及び論文発表の際の諸経費を計上していた。28年度は日本エンドメトリーオーシス学会へは研修として参加した。29年度は「the 13th World Congress on Endometriosis」での学会発表を行った。現在、さらに詳細な検討を追加して、論文投稿を予定しており、それらに出費がかかるため次年度使用額がとして繰り越した。 (使用計画) 本年度は、現在のデータを追加検討し、論文の作成・学会発表を予定している。経費の主要な用途としては、機器のメンテナンス・情報交換や研究成果を学会などで発表するために必要な出張経費、及び論文発表の際の諸経費として使用する。
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