研究実績の概要 |
がんなどに対する卵巣毒性を有する化学療法や,卵巣を照射野に含む放射線療法は,医原性卵巣機能不全や難治性不妊症の原因となり得る.がん治療の進歩により生命予後は改善されつつあり,原疾患の治療の前後に妊孕性を温存することは,がん患者のQOLの改善に寄与すると考えられる.妊孕性温存処置の一つに卵巣組織凍結および融解再移植があるが,その利点として,迅速に施行できること,大量に卵胞を温存できる可能性があること,自家移植後に自然月経の再開と自然妊娠が望める可能性があることが挙げられる.しかし,融解-再移植後の卵巣組織では原始卵胞が著明に減少し,卵巣機能を維持できる期間には個人差が大きいことが判明している.その原因として,再移植後の卵巣組織の低酸素ストレスや,再灌流後障害が考えられている.本研究では,平成28~29年度に婦人科疾患で手術が必要な未閉経の女性から文書による同意を得て卵巣組織を生検し,ガラス化法または緩慢凍結法で凍結した.平成30年度は各凍結法の手順に沿って凍結保存していた卵巣組織を融解し,ヌードマウス12匹の腸間膜上に移植した.飼養期間を4週間と12週間の2群に分け,凍結-融解法あるいはヌードマウスの飼養期間による生着率,卵巣皮質中の卵胞や間質組織の形態的差異を評価した.平成31~令和元年度は飼養期間を12週に統一し,各凍結法で融解した卵巣組織をヌードマウス16匹に移植・摘出した.温存された卵胞発育の程度や,間質組織の線維化について組織形態学的に評価し,卵胞の発育に適した環境について検討した.永久標本による生着率は全体では71%,ガラス化法では69%,緩慢凍結法では78%で,両群間に有意差は認められなかった.凍結―融解のみ施行した組織では線維化は認められず,生着した組織は多くが著明に線維化していたことから,原始卵胞の維持には卵巣皮質の正常な間質構造の維持が必要と推察された.
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