研究課題/領域番号 |
16K20208
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研究機関 | 順天堂大学 |
研究代表者 |
村上 圭祐 順天堂大学, 医学部, 助手 (90597064)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 子宮内膜間質細胞 / 脱落膜化 / 着床 / 免疫 / ビタミンD |
研究実績の概要 |
ヒト子宮内膜は生涯のうちに約400回もの増殖・分化・剥奪といった月経周期を繰り返す。排卵後に黄体より分泌されるプロゲステロンの上昇と子宮内膜局所のcAMP産生の上昇に伴い、子宮内膜は脱落膜化反応を起こす。脱落膜化子宮内膜間質細胞は、胚の子宮内膜への侵入の調節、免疫調節、血管新生など着床・その後の妊娠維持において重要な役割を有する。実際、妊娠とはsemiallograftである胚を受容する必要があり、脱落膜化間質細胞による免疫調節が果たす役割は大きい。ビタミンDには免疫を司る役割があり、近年ビタミンDが妊娠に及ぼす影響に注目されている。今回我々は、ビタミンDが妊娠中の免疫耐性に及ぼす影響と、in vitroでの子宮内膜間質細胞の脱落膜化反応に及ぼす影響について解析した。 当院リプロ外来に通院している不妊女性の大部分(87.3%)がビタミンDが低下していた。ビタミンD充足群と低下群で比較すると、低下群では血中のTh1/Th2細胞比(≧10.3)と高値を示す割合が有意に多かった(p = 0.046) 。ビタミンD欠乏女性にビタミンDサプリメントを投与したところ、Th1細胞とTh1/Th2細胞比は有意に低下した(p = 0.016、0.023、)。In vitroで子宮内膜間質細胞に脱落膜化刺激(cAMP+P4)を加え、ビタミンDを添加したところ、ビタミンD受容体遺伝子の発現増加に伴い、脱落膜化マーカー遺伝子(IGFBP1)の発現を有意に増加させ、INF-γの分泌を減少させた。 不妊女性においてはビタミンD欠乏は高頻度に認められ、妊娠前のビタミンD補充が、妊娠のために適切な免疫環境の確保や、脱落膜化反応を改善し、妊娠成立に寄与する可能性がある。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
臨床業務に追われ、当初予想していたよりも研究に費やす時間を確保できなかった。
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今後の研究の推進方策 |
ヒトは月経を有する数少ない生物であり、周期的な自然脱落膜化反応と月経が受容能獲得に重要なステップである。妊娠が成立しなかった際には黄体の消退に伴い血中のプロゲステロン濃度が急激に低下(progesterone withdrawal)することで子宮内膜機能層の剥奪(月経)が引き起こされる。月経には単に妊娠非成立の結果というだけではなく、その後の子宮内膜再生・胚受容能獲得のために重要な役割がある。我々は、子宮内膜異常に起因する不妊症の原因は、月経期の幹細胞の活性化不全に始まっており、適切に子宮内膜再生の刺激が惹起されないことが影響していると推測している。Progesterone withdrawalは月経を引き起こす第一シグナルであり、子宮内膜局所の炎症反応を惹起し、マトリックスメタロプロテアーゼ(MMP)が活性化することで、生理的な組織の破壊が起こり子宮内膜機能層の剥奪に伴う月経が起こる。Progesterone withdrawalがその後の子宮内膜再生・胚受容能獲得のための最初の重要なシグナルと推測されるが、実際にProgesterone withdrawalが子宮内膜再生・胚受容能獲得に及ぼす影響について検討した先行研究はない。 今後我々は、In vitroで脱落膜化子宮内膜間質細胞にProgesterone withdrawalを加え、その後のサイトカイン分泌、コロニー形成能、細胞増殖能、細胞浸潤能、脱落膜化能、着床マーカー遺伝子発現といった再生能・胚受容能に関わる因子を解析する。次に、先行実験で得られた結果をもとに、反復着床不全女性とコントロールで月経血中に存在する細胞の機能と分泌されているサイトカインを比較解析する。上記の戦略で、Progesterone withdrawalが妊孕能獲得に及ぼす機序と、反復着床不全女性の病態解明につなげる。
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次年度使用額が生じた理由 |
予定していた海外学会に参加できなかったために当該助成金が生じた。 追加実験も必要なので、余剰分は物品費として使う予定である。
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