研究課題
薬剤を用いたHippoシグナル抑制による卵胞発育誘導を基盤とする低侵襲なIVAの確立のため、本研究においてH28年度は以下の項目を予定していた。通常エフェクタータンパクであるYAPはHippoシグナルにより核移行が抑制されている。アクチンの重合化によりHippoシグナルを抑制すると、YAPが核内へ移行しCCN成長因子などの産生を促すことで卵胞発育が促進される。本年度は最も有用なHippoシグナル抑制剤の探索を目的として、YAPの核移行を促進するという報告のあるリゾホスファチジン酸(LPA)やトロンビンのHippoシグナル抑制の証明と卵胞発育促進効果の有無について評価した。まず、LPAとトロンビンによる卵巣におけるHippoシグナル抑制効果を調べる為に、10日齢マウス卵巣をLPAとトロンビンを添加した培養液で卵巣組織培養したのち、Hippoシグナルが抑制されるかについて分子生物学的解析を行った。薬剤処理後の卵巣を経時的に回収し、リアルタイムPCR法およびウェスタンブロッティング法を用いてCCN成長因子の発現変化、免疫染色によるYAPの核内移行について調べた。さらに、LPAとトロンビンによるin vitroの卵胞発育促進効果について10日齢マウスの卵巣を体外組織培養し、培養後の卵巣重量の変化を非処理群と比較したところ、LPAとトロンビンの両薬剤でHippoシグナル抑制傾向がみとめられた。申請者等の開発したIVAは、患者が自らの卵子で妊娠可能な画期的な方法であり、本研究により薬剤を用いたHippoシグナルの抑制が可能となれば、低侵襲な卵胞発育の誘導法が開発可能で、自然妊娠すらも可能となる。本法の確立により、身体的にも経済的にも患者への負担が非常に軽減され、提供卵子以外の有効な治療法がないこれらの患者の大きな福音となり、生殖医学を大きく発展させると期待される。
2: おおむね順調に進展している
本年度の当初の計画通り進展している。
H29年度はHippoシグナル抑制剤を用いて得られたマウス卵子の質とその正常性について検証する予定である。Hippoシグナル抑制剤をマウスに投与し、in vivoでの卵胞発育促進効果の有無について確認する。得られた卵子の質や正常性について評価する。そして1)Hippoシグナル抑制剤のin vivoにおける卵胞発育促進効果について検証する。投与経路としては、卵巣への局所注射、経口投与、経静脈投与が想定されるが、これらの方法で最適な投与方法を調べる。局所注射、経口投与、経静脈投与それぞれにおいてin vivoにおけるHippoシグナル抑制効果についてin vitroと同項目について検討し、卵巣発育促進効果の有無を確認する。濃度はin vitroで効果のあった濃度の約10倍を目安とする。さらに、2)Hippoシグナル抑制剤投与による卵子の質の機能評価とその正常性についても検証する予定である。Hippoシグナル抑制剤を投与したマウスについて、①ゴナドトロピンにより過排卵処理したのちの排卵卵子数の増加、排卵卵子の形態学的正常性を確認する。また、②得られた卵子の体外受精を行い受精率、胚盤胞到達率を調べる。さらに③偽妊娠マウスへ胚移植後の妊娠率、着床率、胎盤重量、胎児体重、流産率について算出する。さらにエピジェネティックな異常を検証するためにインプリント遺伝子のメチル化解析を行う。
本年度は、ほぼ予定通りの研究を遂行できた。次年度はヒト卵巣におけるHippoシグナル抑制効果について研究を行う予定であるが、SCIDマウスの購入が必要不可欠になる。SCIDマウスは高額なためにマウス購入にかかる経費を十分に残したためである。
動物試験において有効性を確認したHippoシグナル抑制剤を用いて、免疫不全マウスの腎被膜下にヒト卵巣組織を移植し、Hippoシグナル抑制の証明と卵胞発育促進効果の有無を評価する。1)ヒト卵巣片における卵胞発育促進効果として 当学のIRB承認および患者の同意の上で得られたヒト卵巣組織を、5mm四方に切断して重傷免疫不全マウスの腎被膜下に移植する。Hippoシグナル抑制剤を局所注射し1,3,6ヶ月後に卵巣組織を回収して、マウスと同項目の分子生物学的Hippoシグナルの抑制と組織学的卵胞発育促進効果の有無について確認を行う。ヒト組織ではすでに組織片にしていることからHippoシグナル抑制効果が薄い可能性も考えられるので、個体差を考慮して同一片で対応するサンプルをコントロールとする。
すべて 2016
すべて 雑誌論文 (1件) (うち国際共著 1件、 査読あり 1件、 オープンアクセス 1件)
J Clin Endocrinol Metab.
巻: 101 ページ: 4405-4412
10.1210/jc.2016-1589