子宮筋腫は最も頻度が高い婦人科良性腫瘍であるが、発症過程などは十分に解明されていない。本研究では、ヒト筋腫組織を用いた簡便なマウス皮下移植モデルを考案し、移植筋腫の発育を確認するとともに、筋腫組織の移植に適した子宮筋腫摘出術式及び腫瘍内における筋腫の部位を分子生物学的および組織学的な解析を行うことによって探索した。 まず、ヌードマウスヒト子宮筋腫皮下モデルを用い、血管新生因子を含有したゲルの有無、estradiol(E2)やprogesterone(P)の必要性について検証したところ、薬剤徐放システムを用いたE2とP両方の持続的な投与が皮下移植した子宮筋腫の発育に必要であることを確認した。次に、子宮筋腫摘出術前のgonadotropin releasing hormone agonist(GnRHa)投与による偽閉経療法の有無、摘出した子宮筋腫のサイズ、組織片採取部位などの因子と、マウスへの筋腫組織片移植後の腫瘍サイズの発育度との関連を組織学的な解析を含めて検討した。結果として①腹式子宮筋腫核出術、②術前のGnRHa投与、③10cm以上の子宮筋腫であること、また、④組織採取部位が筋腫辺縁部位であることが移植後の筋腫の発育に重要な因子であることが判明した。 これらの実験結果より、術前のGnRHa投与が移植筋腫の発育に重要な因子の一つと考えられたが、筋腫組織の遺伝子発現解析を行ったところ、投与群ではIGF2、SMemb、ERα(estrogen receptor α)、PR(progesterone receptor)が有意に発現上昇しており、IGF2は成長因子として働き、SMembの発現上昇は、増殖型平滑筋細胞が増加した可能性が考えられた。 本研究により、新しいヒト子宮筋腫マウスモデルを確立した。このマウスモデルは、子宮筋腫に対する新しい治療法の開発に役立つと考えられる。
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