モルモットにおいて前庭有毛細胞を傷害する方法として、アミノグリコシド系薬剤の投与があげられる。投与薬剤はゲンタマイシンやアミカシンなどの種類があ り、投与経路としては腹腔内投与や鼓室内投与がある。われわれはモルモット鼓室内にゲンタマイシン(40㎎/ml)を投与した後に暴露時間を2時間、6時間とすることで前庭有毛細胞の消失率を約50%、80%と調節することに成功していたが、さらに投与方法を改良する ことで、2時間障害群ではI型有毛細胞のみ消失させたモデルを作成することが可能であった。6時間群ではI形有毛細胞、II型有毛細胞ともに障害されたモデルを作成することができており、MUSE細胞の生着、分化に適切な障害モデルの選択肢が増えたと考えられる。ま た、ゲンタマイシンの腹腔内投与とも比較し安定した障害と、十分な体重増加量、死亡個体がないことなど優れた点を多く確認できた。いずれも組織障害は有毛細胞のみであり支持細胞などの周辺環境の組織形態は保たれていることを確認した。死亡率も低く安定して 障害モデルを作成することが前回までに可能となっている。 これらのモデルにMUSE細胞を投与し、2週間の時点で移植細胞が前庭組織内に生着していることを確認したが、一方で前庭感覚上皮への生着は見られておらず、有毛細胞マーカーの発現も見られていない。投与細胞数を変更したがこの点に関して改善がみられなかった。その後、障害から細胞投与までの期間を短縮し、遊走因子の高いと考えられる時期での投与を行ったがやはり生着は得られなかった。しかし、これらの過程で安定した内耳障害を与えるメソッドを確立できたことは本研究の大きな成果といえる。
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