研究課題/領域番号 |
16K20243
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
馬込 卓弥 大阪大学, 医学系研究科, 助教 (20769731)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 味覚障害 / 精神遅滞 / 味覚伝導路 / 発達障がい |
研究実績の概要 |
quality of lifeの支柱である味覚が障害されると食事摂取低下や偏食を招き、さらには生命の危機に関わる状態に陥る可能性があるが、現時点で機序は不明である。また、臨床面に視座を移すと味覚障害を初発症状とする精神疾患の報告が散見されるが、味覚障害と精神疾患との関連性を示す基礎研究報告は殆どない。 そこで本研究では、精神疾患関連遺伝子と味覚障害の関連性を調べることにより、本疾患に纏わる発症メカニズムの解明を目指している。メカニズムを解明する事で、味覚障害の治療法の開発に繋がり患者の精神面・身体面を大きく改善する可能性もある。我々は従前に、機能が未知である重度の精神遅滞患者より同定されたKIAA2022遺伝子が細胞接着及び細胞遊走に影響することを報告している。(Magome T,Hattori T et al., Neurochem Int.63(6):561-569(2013) 本研究の研究実績として、上記の脆弱性因子が成体マウスにおいてが舌表面・延髄孤束核にも存在することを突き止めた。さらに研究を進捗していく中で、本遺伝子のバリアント自体が存在する可能性も示唆されている。また神経系での、グリア細胞に関連する別実験系よりもKIAA2022遺伝子をノックダウンすると、コントロールと比較して種々の変化が認められている。また本遺伝子をノックダウンさせ機能を抑制させると神経で分岐減少や軸索における異常が報告されている(Van MaldergemL,et al. ,Hum Mol Genet.15;22(16):3306-14(2013))事を鑑みると、我々はこれらの実験結果より、発達障がい患者の味覚障害の発症にやはり、KIAA2022遺伝子が関連している可能性が高いと考えている。そこで今後も多角的なベクトルから精神疾患関連遺伝子と味覚障害の関連性を調べる事とする。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
従来の味覚基礎研究の中心は味蕾などの末梢感覚組織であったため、より中枢の味覚伝導路における精神遅滞原因遺伝子の関連性は現在まで注目されていない。本研究の予想される結果であるが、KIAA2022 遺伝子が機能不全等の異常を引き起こすと味覚低下や組織形態異常が出現する可能性が高い。 現在までの進捗状況として、味覚組織における KIAA2022 遺伝子発現の局在を In situ hybridization で成体マウスの舌表面及び延髄孤束核に強く発現しており、味覚伝導路に局在していることを確認している。さらには本研究を進捗していく中で、成体マウスの脳での発現解析により、本遺伝子のバリアント自体が存在する可能性も示唆されている。さらには、グリア細胞に関連する別実験系よりもKIAA2022遺伝子をノックダウンするとコントロールと比較して種々の変化(RNA及びタンパクレベルにおいて)が認められている。グリア細胞に関連するタンパクの発現量を変化させている可能性が示唆されている。 ただし、KIAA2022 遺伝子ノックアウトマウスにおける味覚組織形態の経時変化、ノックアウトマウスの胎生期から老齢までの味覚伝導路組織形態を観察することで、KIAA2022 遺伝子の味覚伝導路組織における発達分化および形態維持に及ぼす役割を推定するアプローチであるが、現在までの進捗状況から、本遺伝子がX染色体上に存在していることにより難化が予想される。 そこで今後の進捗としても多角的なベクトルから精神疾患関連遺伝子と味覚障害の関連性を調べる事とする。
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今後の研究の推進方策 |
今後の本研究における推進方法であるが、中枢の味覚伝導路が障害されることで、味蕾などの末梢の感覚組織の減少や形態変化が出現することが考えられるので現在までの進捗状況を鑑みながら、引き続き精神疾患関連遺伝子と味覚障害の関連性を調べていきたいと考えている。ただし、KIAA2022 遺伝子ノックアウトマウス作製自体がX染色体上に存在していることにより難化が予想されるので本研究と並行して行っている基礎研究とリンクさせて推進していきたい。具体的には、神経膠細胞に関する研究との関連性である。 神経系の実験に落とし込む事により、相互作用が大きく取れる可能性が高いため、本研究とも結果を統合し解析を進めることで、更なる味覚障害治療へ向けての応用も出来ると考えている。味覚伝導路神経との比較等が出来るため、神経として俯瞰的な、新しい知見が得れるはずである。 また本研究者は、耳鼻咽喉科医が複数所属している神経細胞生物学教室のスタッフとして勤務していたため、耳鼻咽喉科医師による助言指導を常時いただける環境に引き続きある。さらに、現在は上記の経歴に続き、同医学系研究科のスポーツ医学教室に所属している。本教室にも多分野の専門医が所属しており、多角的な観点から、適宜助言を受け研究を遂行することができる。 一つの視座からアプローチしていくのではなく、基礎的な面においても臨床的面においても様々な角度から、味覚障害に対して多角的なベクトルから研究を推進していく。
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次年度使用額が生じた理由 |
KIAA2022 遺伝子ノックアウトマウスにおける味覚組織形態の経時変化、ノックアウトマウスの胎生期から老齢までの味覚伝導路組織形態を観察することで、KIAA2022 遺伝子の味覚伝導路組織における発達分化および形態維持に及ぼす役割を推定するアプローチしていく予定であったが、その作製が難化している。そこでノックアウトマウスをはじめとしたマウスに関連する研究費が減額している。そのために、次年度使用額が生じている。
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次年度使用額の使用計画 |
本研究を進捗していく中で、成体マウスの脳での発現解析により、本遺伝子のバリアント自体が存在する可能性も示唆され、さらには、グリア細胞に関連する別実験系よりKIAA2022遺伝子をノックダウンするとコントロールと比較して種々の変化が認められている。これらをマージして研究を進捗していく上で、各種抗体や、RT-PCR試薬、さらには細胞免疫染色法の関する試薬などに使用していく。
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