我々の生活に必須である五感の一つである味覚が障害されると、食事摂取低下を招く危険性がある。例えば、統合失調症患者では意欲低下により食事を拒むケースも見られる。これらは人体の維持を困難とし味覚障害へのリスクも内包している。初発症状が味覚障害で始まる精神疾患の報告が散見されてはいるが、因果関係を示す基礎研究報告は殆どない。 そこで本研究では、味覚障害と精神疾患関連遺伝子との関連性を調べることにより、本障害に寄与する発症メカニズムの解明を目指した。機序を解明する事で、味覚障害の治療法の開発に繋がり患者の精神面・身体面を大きく改善する可能性もある。我々は従前に、機能が未知である重度の精神遅滞患者より同定されたKIAA2022遺伝子が細胞接着及び細胞遊走に影響することを報告している。さらには、本遺伝子の機能を抑制させると神経で分岐減少や軸索における異常が判明した。 我々は上記の変化に着目し本研究を遂行した。まず、成体マウスにおいてKIAA2022遺伝子が舌表面・延髄孤束核にも存在することを突き止めた。また、神経系の中でもグリア細胞と発達障害並びに統合失調症両疾患のトリガーとなる因子との高い関連性は示唆されている。さらには軸索異常が本遺伝子機能低下により生じる事から、グリア細胞における機序解明を行った。その結果、KIAA2022遺伝子を本細胞内でノックダウンすると、コントロールと比較して種々の変化が、RNAやタンパクレベル下において認められた。 我々はこれらの研究結果より、発達障がい患者の味覚障害の発症にやはり、KIAA2022遺伝子が関連している可能性が高いと考えている。今後も多角的なベクトルから精神疾患関連遺伝子と味覚障害をはじめとした感覚異常のメカニズムについて関連性を調べる事とする。
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