研究課題/領域番号 |
16K20271
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研究機関 | 京都府立医科大学 |
研究代表者 |
中村 高志 京都府立医科大学, 医学部附属病院, 専攻医 (80724179)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | Rac1 / Mid1 / Mid2 / OpitzG/BBB症候群 |
研究実績の概要 |
本研究費の申請時に投稿中であった論文が、この度「Novel role of Rac-Mid1 signaling in medial cerebellar development」の表題でDevelopmentに受理された。本論文において我々は、Mid1はRac1により転写レベルで制御されること、また「Rac-Mid1」が特に小脳正中部の層構造形成に必要な新規のシグナル伝達経路であることを報告した。この中でRac1/3ダブルノックアウトマウスの小脳顆粒層を、形成不全に陥った「正中部」と層構造の保たれた「外側」とを別々に採取して、特に内側でMid1の発現が低下していることをタンパクレベルで証明し、このシグナル伝達経路がOpitzG/BBB症候群の発症に関与する可能性を示唆した。しかし、内側部分でだけ発現が低下する詳細な機序については証明できていなかった。 引き続き我々は、同様の手法を用いてRac1/3ダブルノックアウト小脳顆粒層の正中部と外側部におけるMid2発現の差異について検討した。Mid2を特異的に検出できる抗体が入手できなかったため、本実験は定量的PCRによって行った。するとコントロール小脳顆粒層のおいては、正中部と外側でMid2のmRNA発現量に殆ど差が無かったにも関わらず、ダブルノックアウト小脳顆粒層においては外側においてmRNA発現量が増加していることを発見した。Rac1が小脳顆粒層全体でノックアウトされた際、正中部においてはMid1の発現が低下することにより顆粒層の形成が障害されるが、外側においてはMid2による代償が働いて層構造が維持されている可能性が考えられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
当初平成28年度の計画としては、①Mid2がRac1により制御されている事を明らかにする、②Rac1によるMid1/Mid2の制御は、小脳正中部(小脳虫部)と外側(小脳半球)で異なるのか検証を行う、③Mid1/Mid2のダブルノックアウトマウスを作製し表現型を解析するという3項目を挙げていた。研究実績の概要で述べたように、Rac1/Rac3ダブルノックアウト小脳顆粒層においてMid2が外側部分で発現増加を認めたことでOpitzG/BBB症候群の病態解明が一歩前進したと言えるが、上記で述べたMid1に関わる論文の追加実験と投稿に時間を要したため、計画に挙げていたMid1/Mid2のダブルノックアウトマウスの作成に関しては遅延している状況である。
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今後の研究の推進方策 |
当初の目標に従い、Mid1/Mid2のダブルノックアウトマウスを作製したうえで、その表現型を解析すること、また過去に国内の研究室から報告のあった終脳におけるRac1ノックアウトマウスを入手し、このマウスの脳梁欠損においてMid1/Mid2シグナルが関与するかを検証する予定である。 また、申請者が担当する患者に、眼間解離・口蓋裂・尿道下裂・発達遅滞などの症状からOpitzG/BBB症候群と臨床診断されている男児がいる。倫理審査委員会の承認と保護者の協力・同意が得られれば、本児の頭部MRIを行って脳梁や小脳の形態を確認し、更に可能であれば遺伝子検査を行って過去に報告されている遺伝子変異と表現型との関連を解析し、OpitzG/BBB症候群の病態解明を推進するという選択肢も検討中である。
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次年度使用額が生じた理由 |
「現在までの達成度」で述べたように、Mid1/Mid2ダブルノックアウトマウスの作成に遅延が生じており、その分次年度に使用額が生じている。
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次年度使用額の使用計画 |
引き続きMid1/Mid2ダブルノックアウトマウスの作成を進め、その表現型解析を進めていく予定である。また「今後の研究の推進方策」でふれたように、状況が許せばOpitzG/BBB症候群患者の画像検査や遺伝子解析を行うという選択肢も検討している。
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