研究課題
本研究ではNF2患者由来疾患特異的hiPS細胞を樹立し、両側聴神経腫瘍の病態生理を直接的に検討する。遺伝性疾患における疾患特異的iPS細胞研究では、患者iPS細胞由来疾患細胞の解析と同時にゲノム編集技術で原因遺伝子の変異を修復し、見つけられた遺伝子変異以外の原因遺伝子の存在を否定することが可能となる。そのため研究の前段階として対象疾患の遺伝学的解析が必須であり、本研究でもまずは遺伝子解析から開始した。MRIにて両側聴神経腫瘍を認め臨床的にNF2と診断した患者7例(男性3例、女性4例)の末梢血からDNAを抽出し次世代シークエンサーにて遺伝子解析を行った。5例がpathogenic、1例がlikely pathogenic、1例がunknownであった。現在、遺伝子変異と臨床像の関連を検討しており、今後病原性の高い変異症例からiPS細胞の樹立を予定している。また、likely pathogenic変異に分類された例はスプライスサイトの変異で一般的にはtruncate変異と考えられるが、本例のNF2としての表現形は軽症で発症年齢も遅かった。このような症例で腫瘍細胞におけるMerlinタンパクの発現を検討するには腫瘍組織を解析すべきだが、NF2の両側聴神経腫瘍では手術による腫瘍制御率も高くはなく腫瘍組織を得る機会は稀で、実際本例も長い間MRIでの経過観察のみを行っている。ときに行われる細胞株への遺伝子強制発現系を用いた解析は何らかの現象を示唆する情報をもたらす可能性はあるが、スプライシングそのものが細胞種に大きく依存する現象で患者の体内で起きていることを人為的に腫瘍化させ、しかも聴神経とは異なる細胞株で検討することは、misleadingな結果をもたらす可能性がある。今後の本研究ではこのような症例の分子遺伝学的研究にiPS細胞技術を用いた細胞レベルでの解析を適応していく予定である。
すべて 2019
すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (2件)
Acta Oto-Laryngologica Case Reports
巻: Vol. 4,Issue 1 ページ: p 5-9
10.1080/23772484.2018.1563493