研究課題/領域番号 |
16K20277
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
鈴木 法臣 慶應義塾大学, 医学部(信濃町), 共同研究員 (00573411)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 遺伝性難聴 / 外有毛細胞 / コモンマーモセット / 選択的分化誘導 |
研究実績の概要 |
①外有毛細胞への選択的な分化誘導の樹立:内耳前駆細胞から各感覚上皮に分化誘導するにあたり、有毛細胞と支持細胞は同一の前駆細胞から分化することが知られている。本研究では様々な条件検討を行うことで、外有毛細胞への選択的な分化誘導方法を確立する。国内外でヒトES/iPS細胞からの分化誘導に難渋していることを踏まえ、霊長類であるコモンマーモセットのコルチ器における遺伝子発現パターンを念頭に試薬の種類、濃度、暴露する時間などの条件検討を昨年に度に引き続き進めた。 ②コモンマーモセットの蝸牛上皮における遺伝子発現パターンの検討:これまでの経験で、マウスとコモンマーモセットでは、内耳における遺伝子発現パターンが大きく異なることに複数遭遇しているため、本研究では霊長類であるコモンマーモセットを用いて難聴遺伝子の発現パターンを詳細に検討した。若年成体のコモンマーモセットから側頭骨を剖出したのち、脱灰固定し、内耳蝸牛の凍結切片を作成した。作成した切片を用いて免疫染色を行い、遺伝子の蝸牛上皮への発現を検討した。コモンマーモセット側頭骨は本来入手困難であるが、当研究室ではすでに実験動物中央研究所と検体提供について供与契約を締結しており、定期的に検体を入手している。本研究では、難聴を呈する遺伝性疾患の一つであるWolfram症候群の原因遺伝子であるWFS1のコモンマーモセットの蝸牛上皮における発現パターンの検討を行った。さらに、外有毛細胞への発現が確認されている遺伝性難聴の原因遺伝子であるMYOSIN15A、SLC26A5、DFNA5、KCNQ4も追加検討対象とした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
平成29年度は、疾患特異的iPS細胞の樹立を進行する予定であった。外有毛細胞での機能が重要と思われる難聴遺伝子を絞り込み、遺伝性難聴症例からiPS細胞を樹立し、疾患外有毛細胞を作成して病態解析を行い、これにより新規治療標的候補の選別を行うことを計画している。コモンマーモセットの外有毛細胞に発現が確認された遺伝子を原因とする難聴疾患の患者より採血を行い、初期化遺伝子(OCT3/4、sox2、KLF4、LIN28、L-MYC、p53shRNA)をエピソーマル・プラスミドで導入する。得られた細胞から未分化な細胞を選択しコロニー化する。iPS細胞はライン間の差異があることが知られており、細胞樹立後は、①継代可能で②未分化性が十分に維持され、かつ③内耳耳胞様細胞へ効率よく誘導しうるラインを選別する。継代の効率の良いライン選別や、内耳耳胞様細胞への効率的な分化誘導に難渋した。
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今後の研究の推進方策 |
疾患特異的iPS細胞の樹立をすすめ、得られた分化誘導法を用い、外有毛細胞を可及的大量に調整して、in vitroで解析を行う。解析内容は疾患の原因遺伝子ごとに注意深く選択するが、特に細胞死抑制と、機能解析におけるレスキュー実験を重要視する。
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次年度使用額が生じた理由 |
(理由)昨年度の研究における物品に関し、試薬など新規に購入する合計が、予定よりも少量で研究を遂行しえたため。
(使用計画)ヒトES/iPS細胞の維持、新規細胞株の樹立および誘導には、①一般細胞用と比べて高額なヒトES/iPS細胞用メディウムが多量に必要、②数種類のヒトリコンビナントタンパク質および低分子化合物が必要、であるため比較的消耗品の割合が高くなる。また、小型霊長類であるコモンマーモセットの動物購入費および維持費が高くなっている。現実問題としては、遺伝学的背景がある程度確立したマーモセットを供給できる施設は国内では日本クレア(実験動物研究所:川崎)のみであるため、一匹35~40万円と非常に高価になってしまう。このため、実験規模を規定するN数を確保するために多額の研究費を必要とする。
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