嗅覚障害の原因として挙げられるもののうち、感冒後は副鼻腔炎に次いで第2位の頻度である。また中高年女性に多く、エストロゲン様作用を示す漢方薬が臨床的にも使用されている。しかしながらなぜ感冒後嗅覚障害が中高年女性に多いのか、なぜ漢方薬が効くのかはまだ明らかにされていない。 中高年の女性で減少するホルモンとしてエストロゲンが挙げられる。過去報告では、卵巣摘出によってマウス嗅上皮のOlfactory maker protein(以下OMP:成熟細胞の指標)はベースラインから一旦減少するが、エストロゲン飼料で飼育したマウスの方が普通飼料飼育マウスよりもより多くOMP発現が回復する事が報告されている。これはエストロゲンと嗅上皮再生に関連がある事を示唆していると考えられる。今回嗅上皮傷害を引き起こすことが知られているメチマゾールを用いて、卵巣摘出群と擬手術群における嗅上皮の再生過程を検討した。 8週齢時に卵巣摘出術と擬似手術を施行したbalb/c雌マウスを使用し、9週齢時にメチマゾール腹腔内投与にて嗅上皮を傷害した。その後2、4、6週にマウスの嗅上皮の再生の状態を観察した。染色は成熟嗅神経細胞の指標であるOlfactory marker protein(OMP)、嗅上皮基底部において細胞分裂の指標であるKi-67を行った。評価は嗅上皮の異なる3地点で100μmあたりの全細胞数中の染色陽性細胞をカウントし陽性細胞率として平均値を算出した。 閉経モデルでの嗅上皮再生研究では、メチマゾール投与2週目において卵巣摘出群の方が擬似手術群と比較して、OMP発現が低下していた。さらにKi-67染色陽性細胞率も低下していた。一方メチマゾール投与から4週間経過すると両群間に有意差は認めなかった。 今回の研究で卵巣を摘出したマウスにおいて、嗅上皮を傷害した後の再生過程が傷害早期の段階で遅延することが判明した。
|