申請者らは最近、神経成長因子受容体であるCD271が下咽頭がんにおける造腫瘍能マーカーであることを報告した。しかしながら、CD271のがんにおける働きは十分に解明されていなかった。申請者は予備的検討からCD271ノックダウン細胞の増殖が顕著に低下することを見出し、下咽頭がんの増殖(腫瘍形成能)はCD271依存性であるという仮説を立てた。この仮説を検証するため、本研究を実施した。 本研究では、申請者は、独自に下咽頭がん細胞株HPCM2およびHPCM7を樹立し、siRNAを用いてCD271ノックダウン細胞を作成した。結果、CD271ノックダウン細胞において、1.細胞増殖が顕著に低下する、2.G0期の割合が上昇する、3.静止期(G0期)維持因子であるCDKN1Cの発現が上昇する、4.造腫瘍能が失われる、5.Erkのリン酸化が減少する、5.RhoAを介した細胞遊走能が低下する、ことを見出した。また、CD271はTrk受容体との共作用が知られているが、これらの現象はTrk受容体の発現に依存していなかったことから、CD271独自のシグナル経路に関連するものと考えられた。(2016年にScientific Reportsに報告)これらの結果から、CD271は下咽頭がんにおいて単なる造腫瘍能を規定するマーカー分子というだけではなく、それ自身が機能を持って細胞増殖を制御する因子であり、重要な治療標的となり得ることを見出した。現在、CD271陽性細胞を標的としたヒト化抗CD271抗体を作成し、CD271の実際の治療標的としての妥当性を検討している。
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