研究課題/領域番号 |
16K20299
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
檜森 紀子 東北大学, 大学病院, 助教 (20705230)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 酸化ストレス / 緑内障 / 網膜神経節細胞 |
研究実績の概要 |
緑内障は、現在日本国内における失明原因第一位の疾患である。現状では唯一エビデンスのある眼圧下降治療により視野進行を遅らせることが緑内障治療の主流となっている。しかし治療により眼圧下降が十分得られても緑内障が進行する患者がおり、病態に即した新しい治療法の開発が望まれている。緑内障の基本病態は視神経乳頭陥凹に伴う網膜神経節細胞死であることから、私は神経保護治療に繋がる研究に着目した。 実際、視神経軸索挫滅(緑内障病態)モデルでは、酸化ストレスが組織障害によって生成され、神経節細胞死に関与すること(Levkovitch,Verbin et al. IOVS. 2000)、緑内障患者の視神経乳頭にあるアストロサイトが酸化ストレスに対してGlutathioneや抗酸化防御因子の放出を行うこと(Malone et al. Exp Eye Res. 2007)を明らかにしたことから、酸化ストレスに対する分子メカニズムを研究することは重要である。 基礎研究だけでなく臨床においても緑内障における酸化ストレスの関連は指摘されている。血液・尿は比較的得ることが容易であるため、近年緑内障患者における全身性の酸化ストレス指標の上昇、抗酸化力値の低下について報告されている(Tanito et al. PLoS One. 2012、2015)。我々は、正常眼圧緑内障患者に酸化ストレスマーカー(尿中8-OHdG値、皮膚AGE)と組織領域の視神経乳頭循環とが相関することを明らかにした(Graefes Arch Clin Exp Ophthalmol. 2016)。 上述したように現在行われている眼圧下降治療は限界を迎えているため、酸化ストレスに対する抗酸化剤は緑内障治療や発症予防補助の候補となりえるか、介入可能な疾患の一つとして考えられるかを明らかにすることも目的とする。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
<基礎研究> in vitro実験の結果、Nrf2活性剤の一つであるスルフォラファンを野生型マウス眼内に投与することで網膜の生体防御酵素群(NQO1、HO1、GSTA4、TXNRD)の発現を誘導したが、Nrf2ノックアウトマウスの眼内に投与しても生体防御酵素群の発現は誘導されなかった。また、野生型マウスの網膜を用いたmix cultureにおいてスルフォラファンを投与すると生存網膜神経節細胞数の増加を示した。以上よりスルフォラファンは網膜神経保護作用を有することが明らかになった。 <臨床研究> 我々は、当院緑内障外来通院中の開放隅角緑内障患者の酸化ストレスマーカーである皮膚AGEと緑内障重症度MD値とが負の相関を示す明らかになった。対象全例において緑内障重症度と皮膚AGEは弱い相関を見られ、58歳以下の比較的若年緑内障患者においてより強い負の相関を認めることが明らかになった。多変量解析において、MD値において皮膚AGEは独立した寄与を認めることが明らかになった(Br J Ophthalmol. 2016)。酸化ストレスが眼圧非依存性因子の一つとして緑内障と関連することを強く示唆する結果を得ている。以上より、全身的な抗酸化治療は比較的若年の緑内障患者において視野維持に有効な治療法になると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
<基礎研究> H25年度のin vitro実験の結果、神経保護作用を有する候補となった薬剤を用いてin vivo実験を行う。我々は網膜神経節細胞を単離する技術を確立しており、マウスに薬剤を投与し単離回収した網膜神経節細胞において、抗酸化酵素などの発現を認めるか否か検討する。予め蛍光色素で網膜神経節細胞を逆行性染色し、薬剤を野生型やNrf2 KOマウスに投与し、緑内障病態モデル・軸索障害7日後の生存網膜神経節細胞数を計測することによって薬剤の網膜神経節細胞保護効果の有無を検討する。また、実際に薬剤を投与することで網膜の酸化ストレスマーカー(4HNE、8-OHdG)の免疫染色、脂質酸化ストレス(TBARS)定量を行い、酸化ストレス値の変化を比較し、リアルタイムPCRにて網膜における抗酸化酵素の発現変化を比較検討する。 <臨床研究> 正常コントロールや緑内障患者において酸化ストレス値、抗酸化力の改善の有無を確認する。また、尿中の酸化ストレスマーカー(8-OHdG)、皮膚AGE値を測定する。これらを臨床データとともに解析し、酸化ストレスと緑内障(病期や視野進行など)との関連を検討する。また、薬剤投与によって視野感度改善、視野進行抑制、レーザースペックルフローグラフィーを用いて視神経乳頭組織領域の血流改善を認めるか検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
実験が予想よりも進まなかった部分もあり、実験費用が予定よりも少ない結果となった。
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次年度使用額の使用計画 |
臨床研究の試薬費用がかさむため、次年度は尿中の酸化ストレスマーカー(8-OHdG)、血液中の酸化ストレス、抗酸化力の計測をより多くの患者において施行する。
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