研究課題/領域番号 |
16K20311
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研究機関 | 福井大学 |
研究代表者 |
三宅 誠司 福井大学, 学術研究院医学系部門, 助教 (50572765)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 網膜神経節細胞 / 軸索輸送 / オートファジー / 酸性顆粒 / 細胞死 / 緑内障 |
研究実績の概要 |
緑内障は網膜神経節細胞や軸索が消失する神経変性疾患である。神経細胞は一度障害されると再生を望めないことから、医療現場では治療の基本となる薬剤によって眼圧を下降させることで病態の進行を抑制している。しかし、十分な効果を得られない場合や眼圧が下降しても進行する例もあり、治療方法の選択肢を増やすためにも眼圧以外の因子を標的とした緑内障治療方法の開発が急務とされている。 本研究ではストレス負荷した細胞のシングルセル解析を行い、軸索でのミトコンドリア動態と遺伝子解析による細胞の死や生存に関連する因子の遺伝子発現変化を明らかにし、得られた知見から神経保護を指向した新規の遺伝子治療戦略法を確立したいと考えている。 緑内障の病態として網膜神経節細胞の軸索変性および細胞死が知られている。細胞死に至る過程には、神経栄養因子や小胞体ストレス、death receptorなど様々な因子が関与していることが明らかになっている。申請者は炎症性サイトカインや酸化ストレスの影響によっても軸索輸送動態が変化すると考えた。そこで、軸索輸送障害と種々のストレスの関係を明らかにし、正常状態の輸送動態と比較することで、どの様な原因によって軸索輸送が障害され、細胞死に至るのか検討した。 平成28年度は実験の第一段階として、正常状態および微小管重合阻害剤による軸索障害が軸索輸送動態に与える影響に注目した。網膜神経節細胞の軸索における酸性オルガネラの輸送特性を検討したところ、大部分が軸索末端から細胞体へ輸送されていた。 軸索障害を誘導したところ、24時間後に全ての輸送が停止した。そして、72時間経過後には軸索の断片化や、細胞体の収縮および消失が認められた。120時間後には全ての網膜神経節細胞が細胞死に至った。対象群では輸送動態に変化はなく、細胞死は起こらなかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
これまでの予備検討により、市販されているミトコンドリア染色試薬の中でも、蛍光持続時間や細胞毒性の低さから、Rhodamine 123(Rh123)がライブイメージングに最適であると考えていた。しかし、細胞体および軸索をイメージングしたところ、キモグラフを作製しても一つ一つの蛍光スポットを追跡できない程のミトコンドリアが輸送されていた。Rh123の濃度を検討したものの、検出限界や検出感度との兼ね合いから、一つ一つのミトコンドリアから放出される蛍光スポットを検出することができなかったため、ミトコンドリアを軸索輸送の指標とすることを断念した。そこで、ミトコンドリアと同様に特異的染色試薬が市販されており、簡便に染色でき、軸索輸送される細胞小器官としてオートファジーに関与する酸性オルガネラに着目した。ライブイメージングを行うとミトコンドリアに比べ非常に蛍光スポットを追跡し易くなったため、以降の実験では軸索輸送の指標として酸性オルガネラを用いることにした。 これらのことから進捗状況はやや遅れていると考えている。 しかし、生理状態および軸索が障害されることによる輸送動態の変化を経時的に検討したところ、軸索輸送障害によるオートファジーの機能低下が、RGCの細胞死の一因となることが明らかとなったことから、平成29年4月現在、ここまでの結果をまとめ、Current Eye Researchに投稿中である。
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今後の研究の推進方策 |
緑内障の進行に関与する種々のストレスを負荷することで、軸索輸送機能が受ける影響の動的な検証を進める予定である。外因性ストレスとして、臨床および基礎研究において緑内障や網膜神経節細胞の細胞死との関連が報告されている炎症性サイトカイン(TNFa、IL6)、酸化ストレス(過酸化水素)を想定している。 また、特異的蛍光色素によるミトコンドリアの染色では、軸索輸送動態を評価できなかったが、両方向性の輸送物質の検出は、より軸索輸送動態を反映していると考えている。そこで、ミトコンドリアを特異的に蛍光タンパク質で標識できるプラスミドの構築を予定している。トランスフェクションにより単離培養した網膜神経節細胞へ導入することで、評価系の確立も進める予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成 28 年度の計画では、種々の外因性ストレス(サイトカインや酸化ストレスなど)を負荷することで、軸索流の動態変化を比較する予定であった。しかし、軸索流の検出や、実験系のポジティブコントロールとしてのコルヒチンによる軸索障害による動態変化を検出したところで年度が替わってしまったため、購入予定であった試薬分の金額が未使用となった。
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次年度使用額の使用計画 |
平成28年度の成果を現在投稿中である。そこで確立できた実験系を踏まえ、臨床研究において緑内障の発症や進行に関与するとされるサイトカインや酸化ストレスの軸索流への影響を明らかにすることは、今後、遺伝子導入による神経保護を評価するうえで、どのような外因性ストレスに対して介入しているのかの指標になることから、平成28年度の未使用額は、本来の目的である試薬購入に充てたいと考えている。
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