緑内障は網膜神経節細胞およびその軸索が消失する神経変性疾患である。神経細胞は一度障害されると再生を望めないことから、医療現場では病態の進行抑制が最優先事項となる。緑内障の進行抑制には眼圧下降が唯一の科学的根拠を持った治療法である。しかし、眼圧を下降させても進行するタイプも存在しており、その場合は有効な治療法がない。このことから、申請者は緑内障のメカニズムとして、眼圧とは異なる要因によって網膜神経節細胞の軸索輸送が障害を受け、細胞死が誘導されていると考えた。 そこで、本年度は、緑内障の発症に関与すると示唆されている炎症や酸化ストレスによって網膜神経節細胞の軸索輸送機能が受ける影響を動的に検証した。単離した網膜神経節細胞を000.1-1.0μg/mlのTNF-αで処理したところ、1.0μg/mlのTNF-α存在下で24時間後の移動性のミトコンドリアの割合が有意に減少した。これに対し、リソソームなどの酸性顆粒の軸索輸送には影響が見られなかった。さらに、50μMの過酸化水素を処理すると、6時間から12時間経過後に移動性ミトコンドリアが減少する傾向が観察された。しかし、いずれの場合も細胞死に至らなかった。 さらに、NMDA(N-methyl-D-aspartic acid)の添加では軸索輸送動態に変化が見られなかった。また、緑内障患者の房水中で増加すると報告されているIL6を様々な濃度で添加しても細胞死は誘導されなかった。 申請者のグループは、軸索輸送の低下が細胞死の前段階として生じることを報告していることから、サイトカインや酸化ストレスが、眼圧に関係なく緑内障が進行することの一因となる可能性を示唆している。
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