コア転写因子の機能解析を行うために、まず6つの転写因子のうち、眼の発生に重要な転写因子であるPAX6のsgRNAをCRISPR/Cas9一体型であるレンチウィルスベクターにクローニングしてウィルスを作成し、角膜上皮細胞に遺伝子導入して、CRISPA/Cas9でノックアウトしたヒト角膜上皮細胞を解析した。その結果、角膜上皮特異的タンパクであるケラチン12 (K12)を含む角膜関連遺伝子の発現が低下し、ケラチン1(K1)やケラチン10(K10)といった皮膚関連遺伝子の発現の上昇を認め、PAX6が角膜上皮細胞の特異性を規定する重要な因子であることを明らかにした。次にOVOL2のノックダウン実験をsiRNAを用いておこなった。オフターゲットの可能性も考え、4つのsiRNAを用いたが、すべてのsiRNAにおいて同様にOVOL2のノックダウンを確認できた。角膜上皮細胞にてOVOL2をノックダウンすると上皮細胞の形態から線維芽細胞様の形態に変化した。またE-カドヘリンを含む上皮系遺伝子の発現が低下し、バリア機能も大きく低下した。網羅的な解析においても上皮系関連遺伝子が低下していた。一方で間葉系遺伝子の発現が上昇していた。さらに、角膜上皮のコア転写因子の1つであるKLF4は角膜上皮幹細胞が存在すると考えられる輪部基底部では発現が弱く、ケラチン12(K12)の発現パターンと一致し、KLF4は角膜上皮細胞の分化に寄与する事がわかった。ケラチン3およびケラチン12はいずれも最終分化マーカーであり、これらの一連の研究結果から、角膜上皮細胞の最終分化に必要な転写因子ネットワークを解明でき、異常分化を抑制するための、正常角膜上皮分化に必要な転写因子ネットワークを解明する事ができた。
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