研究実績の概要 |
加齢黄斑変性(AMD)は今なお視力予後不良な疾患である。予後要因として脈絡膜新生血管(CNV)を伴う網膜組織周囲の線維性変化が挙げられるが、網膜組織の線維化抑制治療は存在しない。近年、線維性疾患の進展にepigeneticな調節機構の破綻が示唆されており、様々な臓器においてHDAC(histone deacetylase)阻害剤による線維化阻害効果が報告されている。しかし、既存のHDAC阻害剤(SAHA,TSA)は、炎症組織におけるTGFβ+TNFαでの線維化に対しては効果が弱い。我々は、新規HDAC阻害剤「OBP801」がこの病態に対しても著効を示すことを見出し、線維化抑制を標的とした新規AMD治療薬開発の端緒とした。我々が行ったOBP801の網羅的遺伝子発現解析結果から、この化合物が線維化のみならずCNV、さらには瘢痕化まで抑制する可能性が示唆された。そこで、本年度において、レーザー誘致CNVモデルマウス実験系を用い、in vivoでのOBP801の線維化および、CNV抑制効果の検証をおこなった。レーザー照射後14日マウスから脈絡膜flat-mountを作製し、αSMA, Collagen I等の免疫染色により線維化組織を検出した。その結果、OBP801未処置群ではレーザー痕周辺にαSMA, Collagen Iの強いシグナルが見られたが、OBP801処置群ではそのシグナルが明瞭に減少していた。また、照射後30日マウスから網膜flat-mountを作製し、IsolectinB4により血管を染色し、CNVの有無を判別した。その結果、OBP801未処置群では脈絡膜側にCNVの形成が見られたが、OBP801処置群ではCNV形成が認められなかった。このin vivoにおける線維化およびCNV抑制効果の実証によりOBP801のAMD治療薬としての開発が大きく前進した。
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