研究実績の概要 |
1)現在、唯一の白内障治療は、手術で混濁した水晶体を除去し、眼内レンズを挿入する方法である。しかし、術後の後発白内障(PCO)により、再度、視機能低下をきたすことがある。ラットPCOモデルの水晶体上皮細胞(LEC)は、術後1週目で創傷治癒に伴う上皮間葉系移行変化を生じ、2週目以降赤道部水晶体嚢において水晶体線維再生という異なる細胞変化を生じる。今回、ラットPCOモデルを作成し、術後0、1、2週目におけるLECの遺伝子発現の継時的変化をDNAマイクロアレイで網羅的に解析した。結果:Day0に比べて、1週, 2週後に発現が2倍以上になっていた遺伝子の中でも100倍以上増加していたのがデコリン(DCN)であった。他にコラーゲンやフィブロネクチン、以前よりPCO関与の報告があるトロポミオシン、TGFβ誘導因子などが検出された。これらDCNやTGFβ誘導因子はリアルタイムPCRでも発現上昇を確認した。Day0に比べて1W後に発現が1/2以下になり、2W後に発現が2倍以上になっていた遺伝子にγクリスタリンやフィレンシンなど、分化した水晶体線維に発現する遺伝子を認めた。 2)DCNはヒトLEC (HLEC) 及び房水中にも発現しているかを、ヒト白内障手術時に採取したサンプルで解析した。また、年齢及び白内障混濁程度との関係も解析した。結果:金沢医科大学臨床研究倫理委員会の承認を得て施行した。2015年5月~12月までで、金沢医科大学病院で白内障手術を行い、文書にて同意を得た患者82名101眼(男性34名39眼、女性48名62眼)、平均年齢71歳。対象者の中でも増殖性糖尿病網膜症や硝子体出血、ステロイド使用者は除外した。結果HLECにもDCN遺伝子発現を認め、房水中にもDCN が検出された。DCN遺伝子発現量と房水中DCN濃度は年齢や水晶体混濁程度に関わらず様々な値を認めた。
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