人間の新鮮解剖体を用いて実体顕微鏡と組織標本作製による大網の観察を行った。結果は、胃大網動静脈沿いには多数のリンパ管を認め、リンパ管移植としての機能を十分に持つ可能性が考えられた。そして、下肢の皮下集合リンパ管と比較した大網内リンパ管の特性として、平滑筋成分が少なかった。このことは、大網移植を施行する際に重力の影響を考慮する重要性が示唆された。また大網の大きさには個人差が大きいこと、リンパ管は豊富に認められるが、乳斑の同定、生理学的機能については生体でないと困難であることがわかった。 生体での大網の観察と機能評価を目的に、腹部リンパ浮腫モデルマウスの作成の確立を行った。まず血流を保ったまま有茎大網移植を行い観察を行うために、体表からリンパシステムの観察と定量評価が可能になるリンパシステム可視化モデルマウスを開発した。これにより、種々の移植による効果が経時的に、また定量として評価が行えるようになった。実際にリンパ節移植と大網移植を行い、リンパ管の増生を体表より確認し得た。実際に腹部リンパ浮腫モデルにおいてリンパ節移植と大網移植を施行した。結果としては、血流のない大網乳斑移植とリンパ節移植では有意なリンパシステムの改築がなされないことがわかった。一方、血流のあるリンパ節移植を行うと、リンパ管の新生は有意に認めた。しかし、移植リンパ節実質にリンパ流が取り込まれるマウスと、取り込まれないマウスが存在した。その違いを検索すると、リンパ節周囲の瘢痕形成の存在が示唆された。このことから血管柄付きリンパ節移植には少なくともリンパ管新生を促す作用が存在すること、そして線維化がリンパ新生を阻害することが示唆された。
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