口蓋裂術後の嚥下時には問題ないが、会話時に鼻咽腔閉鎖機能不全となる症例が残存しており、その原因究明を行うための研究を計画した。具体的には、口蓋裂術後の言語成績にとって重要な鼻咽腔閉鎖機能における重要な役割を担っている口蓋帆挙筋の神経支配について着目したわけだが、ヒト胚子胎児標本の観察研究と、口蓋裂手術時に神経刺激を行うという臨床研究の両面からアプローチを行った。口蓋帆挙筋の神経支配については、従来から言われている咽頭神経叢支配に対して、小口蓋神経を介した顔面神経の支配を示唆する報告があり、後者は証明されてはいない。1歳頃に行われることの多い口蓋裂の手術時に小口蓋神経を同定し、神経刺激を行い筋電図が得られるかどうかを調べる臨床研究を行った。これまで13例神経刺激を行い、7例、口蓋筋群の筋電図が得られ、すべての症例ではないが、約半数近くの症例で筋電図が得られた。小口蓋神経はこれまで口蓋形成の手術の時には意識されることがなく、切断されることもあったと思われるが、温存する重要性が新たに発見されたといえる。口蓋形成の術後の言語成績は、患児が成長し、4歳5歳頃にまでならないと評価ができないため、数年後に言語成績をまとめて報告する予定である。全ての症例において筋電図が得られたわけではないために、口蓋帆挙筋の小口蓋神経の支配が証明されたとは言えないかもしれないが、これまでの動物実験や死体研究よりも強くその関与の可能性が示されたといえる。
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