ラットの皮弁血管を遮断する簡易的な閉塞モデルで皮弁静脈の変化を観察した。Wistar系ラットの腹部島状皮弁を挙上し、皮弁を栄養する血管(大腿動静脈)を遮断(クランプ)し、赤外線カメラで皮弁観察を行った。血管の閉塞前、動脈のみの閉塞、静脈のみの閉塞、動静脈の閉塞の閉塞に応じた皮弁の血管像データの比較を行い、特徴の抽出を行った。結果、茎の動静脈の閉塞による皮弁内の血管の特徴的な変化をとらえることができた。動脈のみの閉塞では、皮弁の血管は太く鮮明化するが、血管そのものは蛇行しないで直線的である。静脈のみの閉塞では皮弁の血管は太く鮮明化しかつ大きく蛇行する。動脈及び静脈の閉塞では血管は蛇行するが、血管の太さはそれほど増加しない。ただし、この特徴は血管の一部を閉塞させる血管狭窄モデルでは確認できなかった。最終年度ではコンピューターの目(Computer Vision)に血管の特徴量をとらえさせることを目指し、数値解析ソフトウェアであるMatlabで画像の鮮明化及び画像の特徴量抽出のプログラム開発を行った。血管の特徴的な変化をコンピューターで認識させるためには、血管の形状変化を数値化する必要がある。河川の屈曲の程度を表す、蛇行率を採用したところ、静脈の閉塞の判定については有効であった。動脈の閉塞の判定については血管の変化が少なく、研究期間内では有用な数値化を見いだせなかったため、今後の課題となる。しかしながら、考案したアルゴリズムによる血行モニタリングは、血管の形状という大きなデータ量(2次元行列)から血管閉塞を判定する点で、1つの対象変数(1次元)で血管閉塞の判定を行う酸素飽和度などを用いる方法よりも信頼性の高い方法となりうる。マイクロサージャリーで悲願である移植組織の血行の連続モニタリングデバイスの実現にとどまらず、臨床医学で組織の血流の評価が必要となる他分野への貢献が期待できる。
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