研究課題/領域番号 |
16K20374
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
伊丹 貴晴 北海道大学, 獣医学研究院, 特任助教 (90724203)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 呼吸性アシドーシス / 心拍出量 / 肺動脈圧 / ピモベンダン |
研究実績の概要 |
我々は、アシドーシス病態下ではカテコラミンβ作動薬であるドブタミンおよびアデニル酸シクラーゼ賦活薬であるコルホルシンなどの循環作動薬はその作用が減弱されることを明かにしてきた。ピモベンダンは、ホスホジエステラーゼIII阻害作用および心筋カルシウム感受性増強作用のデュアルエフェクトにより、強心作用ならびに血管拡張作用を得る薬剤である。しかしながら、アシドーシス病態下におけるピモベンダンの心機能改善効果の報告はない。そこで、呼吸性アシドーシスモデルビーグル犬への静注用ピモベンダンの心機能改善効果を検討した。 正常群(N群:pH7.4)と二酸化炭素吸入による呼吸性アシドーシス群(A群:pH7.0)とにおいてピモベンダンを繰り返し増量(0.125mg/kg-0.250mg/kg)して投与した。心血管系機能の評価は、肺動脈カテーテルを用いた熱希釈法による心拍出量測定と観血的動脈血圧測定とを用いた。ピモベンダン投与により、心拍出量および心拍数は増加したが、その増加率はA群で抑制された。一回拍出量はN群で有意に増加したが、A群では有意差は認められなかった。平均動脈血圧および全身血管抵抗は両群で低下した。肺動脈圧および肺動脈楔入圧はN群では有意差は認められなかったが、A群では有意に低下した。また、肺血管抵抗は両群で有意に低下した。 僧帽弁閉鎖不全症を含む左心系疾患の病態終末像の1つとして低換気による呼吸性アシドーシスを伴う肺水腫や肺高血圧症があげられる。今回、犬の呼吸性アシドーシスモデルビーグル犬において静注用ピモベンダンは心拍出量を上昇させ、全身血管抵抗、肺動脈圧および肺血管抵抗を低下させることを明らかにした。ドブタミンおよびコルホルシンでは肺動脈圧をそれぞれ上昇および改善できないため、とくに左心性心疾患に伴う肺高血圧症の急性増悪時の管理にピモベンダンは有用であると考えられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
当該年度の目標である代謝性アシドーシスの作成において、生体ビーグル犬を吸入酸素濃度7-10%に低下させた低酸素血症状態では、生体代謝過程で生じる内因性の不揮発性酸の産生量が少ないためか、pH=7.2までの低下に留まり、目的まで(pH=7.0)低下させることができなかった。安定したモデル作成がカテコラミンおよびピモベンダンの心収縮力の評価には不可欠であり、そのモデル作成に現在遅延が生じている。 また、PiCCOモニターを用いた経肺熱希釈法-動脈圧波形解析による連続的心拍出量測定は、高心拍数時には解析不能となることから、当初の予定と変更して、肺動脈カテーテルを用いた心拍出量測定に切り替えることとした。その結果、肺動脈カテーテルでは安定した測定が可能となり、今後は頭数を増加することとした。 呼吸性アシドーシスモデルの作成はすでに完成しており、現在安定したデータサンプルが可能となった。本研究はクロスオーバーで行う予定であり、同一供試犬を繰り返し使用することから、研究の遂行には一定の期間を必要とする。統計学的解析を行うまでのデータサンプルは本年度上半期で終了し、下半期には学術誌へ投稿する予定である。
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今後の研究の推進方策 |
呼吸性アシドーシス病態時のドブタミンおよびピモベンダンの心血管系に及ぼす影響に関しては、モデル作成が確立したため、現在の実験系を遂行していくことで結果を得られると予想される。しかしながら、本研究は同一供試犬を繰り返し使用するクロスオーバーで評価するため、供試犬の薬剤ウォッシュアウト時間を考慮するとデータサンプルに一定期間を必要とする。現在までの進捗状況であれば上半期で呼吸性アシドーシス病態時のすべてのデータが採取可能である。また、データ採取と併行して学会発表用資料および論文作成資料を作成し、下半期では研究結果を社会へ公開できることを目標とする。 一方、研究計画の1つであった代謝性アシドーシスモデルの作成は、当初予定した吸入酸素濃度7-10%での嫌気代謝過程で生じる乳酸性代謝性アシドーシスモデルの作成を実現することができなかった。今後の方策として、末梢静脈より外因的に不揮発性酸である乳酸を投与するなどを併用することで、補助的にpHの低下を試みる予定である。当初の研究計画より達成度が遅延していることから、呼吸性アシドーシス時の心機能評価を解析した後、すぐに代謝性アシドーシスモデルの確立に取り掛かり、研究計画を遂行する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
予定していたアシドーシスモデル作成条件が安定化せず、当初計画よりも遅延している。呼吸性アシドーシスモデルについては安定化した条件の確立に成功したため、今後は加速度的にデータサンプルが可能であると考える。一方、低酸素血症状態を維持することでの代謝性アシドーシスモデルの作成は困難であったため、外因的に乳酸などを投与することなどで補助的にpH値を下げることで代謝性アシドーシスモデルの構築を目指す。 (使用計画) 今年度の使用額として、肺動脈カテーテルや薬品類などの消耗品の購入を予定している。呼吸性アシドーシスモデルの作成は確立したため、今後安定して請求した助成金内で実験系を完遂できると考えている。
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