研究課題/領域番号 |
16K20377
|
研究機関 | 千葉大学 |
研究代表者 |
服部 憲幸 千葉大学, 医学部附属病院, 助教 (50400974)
|
研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
|
キーワード | 敗血症 / 重症感染症 / メロペネム / 血中濃度 |
研究実績の概要 |
重症感染症はすべての診療領域で発生し,頻度も高いが,死亡率は依然として高い.救命にはメロペネム(MEPM)などの広域抗菌薬を速やかに投与することが重要で,現在は既定のプロトコールに基づき投与されている.カルバペネム系抗菌薬の効果を最大限に引き出すためには薬物動態学(pharmacokinetics,PK)を考慮し,血中濃度が最小発育阻止濃度(minimum inhibitory concentration, MIC)を超えている時間(time above MIC, %T>MIC)を出来る限り長くする必要があるが,重症患者では臓器不全などのため抗菌薬の血中濃度が不安定になりやすく,プロトコールベースの投与方法では過少投与,過剰投与が起こっている懸念がある.しかしMEPMは血中濃度測定ができないため,個々の患者の薬物動態を評価しないまま治療が行われてきた.そこで個々の患者でMEPMの薬物動態を明らかにして既存のプロトコールの有効性や安全性を評価し,適切なプロトコールやtherapeutic drug monitoring(TDM)の方法を新規に確立することを目的に本研究を行っている. 今年度はICUに入室した重症敗血症患者の検体収集をさらに進め,前年度から累計34例の検体を収集した.うち18例について解析を行い,MEPMの薬物動態モデルを構築した.さらに持続的血液濾過透析(CHDF)施行中の患者において,1日2回投与のプロトコールで十分な%T>MICを有していることが確認できた.
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
昨年度に引き続き,累計34例の患者検体を収集した.うち18例について薬物動態の解析をおこなった.その結果,MEPMの薬物動態はone compartment modelと考えて問題ないことをより高い精度で示すことができた. エントリーの対象となり得る患者さんおよびそのご家族からは,引き続き概ね順調に同意を取得できている.研究協力者と研究の進捗状況を共有するためのmeetingも実施しており,研究チームメンバー間のコミュニケーションも良好である.ただしカルバペネム耐性菌の問題などから,現在病院全体でMEPMの使用頻度が抑制される傾向にあり,最近になり症例登録は減少傾向である.そのため血液浄化法によるクリアランスの算出などの進捗はやや遅れている.また,MEPMの投与を受ける患者は急性腎障害を合併していることが多いため,当初想定していたよりも1日3回投与の症例数が少なく,逆に腎機能低下が著しい症例ではCHDFが施行されることが多いため1日1回投与の症例数も想定よりは少ない.結果としてこれらの群では症例登録は予定より少なくなっている. これまでの解析結果からは,MEPMの薬物動態はtwo compartment modelであることに加え,CHDF施行中に1日2回投与とした場合は十分な%T>MICを有していることがあきらかとなった.これまで得られた結果については,血液浄化領域,薬物血中濃度モニタリング領域の国内学会で報告を行い,論文作成の準備を進めている.また少ないながらも血液浄化器の前後などでの検体収集は行っており,今後の測定・解析に備えている.
|
今後の研究の推進方策 |
本年度は引き続き症例登録(検体の収集)および保存してある検体の測定・解析を行う.また,異なる投与スケジュールでの%T>MICの解析や%T>MICに影響を与える因子の検討を行う.%T>MICに影響を与える因子の一つとしてCHDFに代表される血液浄化法は重要であり,クリアランスなどの研究を進める.これまで解析した範囲では既存のプロトコールで十分な%T>MICを有している可能性が高いと考えられ,その場合は想定していた新たなプロトコール作成およびその検証は行う必要がない.そのため本年度は,MEPMの1回投与量を減じた場合の薬物動態シミュレーションや,今後の展開としてMEPMの効果を別の視点,例えば免疫学的指標などから解析することができるかどうか評価するための予備実験を追加することを検討している. また本年度は研究成果を国内外の学会で発表し,論文化を行う.
|
次年度使用額が生じた理由 |
本年度は%T>MICに影響を与える因子の検討まで行えなかったため,サイトカインなどの測定費用がかからなかった.次年度使用額についてはサイトカインの測定や新たな予備実験に使用する試薬代,血液浄化法のクリアランスに関する基礎実験などに使用することを考えている.また,データの解析,まとめ,発表や論文作成に必要な物品の購入,成果発表のための交通費,宿泊費,論文作成に必要な資料やツール,校正の費用などにも使用する.
|