研究実績の概要 |
プロポフォールの長時間大量投与による毒性の機序は、症例報告や動物実験・動物細胞実験を通じて検討されている。しかし、ヒト細胞に対する影響は未だ十分解明されておらず、ヒト培養細胞での実験系も確立されていない。そこで我々は、ヒト人工多能性幹細胞(iPSC)由来神経細胞を用いて、プロポフォールが培養神経細胞に与える影響を検討した。 ヒトiPSC由来神経幹細胞を14日間培養し、神経細胞に分化させたものを使用した。プロポフォール(2,10,50μg/ml)を48時間曝露した後、ATP産生、NAD+/NADH比、生細胞プロテアーゼ活性(細胞の生存率の指標)、カスパーゼ3/7活性(アポトーシスの指標)を測定した(各群n=4)。統計学的検討にはDunnettの多重比較検定を行い、P<0.05を有意とした。 10μg/ml群で、有意に生細胞プロテアーゼ活性の低下や細胞あたりのカスパーゼ3/7活性の上昇が起き始め、ミトコンドリアの活性を反映するNAD+/NADH比は24.6%(P<0.05)低下した。さらに50μg/ml群では、NAD+/NADH比は40.1%(P<0.01)、ATPは17.9%(P<0.05)それぞれ低下し、ミトコンドリアでのNADH利用障害とそれに並行するATP産生の低下を生じたと考えられる。生細胞プロテアーゼ活性 15.9%低下(P<0.01)、カスパーゼ3/7活性 24.0%上昇(P<0.05)も認められた。電子顕微鏡所見では、対照群に比べ、プロポフォール50μg/ml群において、ミトコンドリア分裂像やそれらを貪食するようなオートファゴソーム像、細胞質内の空胞化を認めた。 ヒトiPSC由来神経細胞において、プロポフォールの高濃度かつ長時間の曝露により、電子伝達系の抑制によるミトコンドリア機能障害およびアポトーシスによる細胞毒性が誘起されることが示された。
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