本研究の目的は、リコンビナントトロンボモジュリン(以下rTM)の抗炎症作用に着目し、敗血症モデルマウスを用いてrTMが敗血症により生じた臓器不全を抑制することを超微形態を用いて形態学的に検証したうえで、そのメカニズムを分子生物学的に解明することであった。 平成28年度はrTMの至適投与量を検討し、研究モデルの検討を行った。LPS20mg/kgを腹腔内投与して得られる敗血症モデルマウスに、rTM治療群にはLPS投与後3、24時間後に30mg/kgのrTMを投与し、48時間後に検討する実験系を確立した。結果、rTM治療群では生存率の改善、血管内皮傷害の抑制、各臓器不全抑制を確認した。 平成29年度は、当研究室ですでに確立している血管内皮上に存在する血管内皮グリコカリックスの形態学的観察を用いて、rTMの治療効果を中心として検討した。血管内皮グリコカリックスは血管内皮細胞表面を覆うように多糖類や糖たんぱく質で構成されている層である。この血管内皮グリコカリックスは透過性の調節や微小血管のトーヌスの調節など多岐にわたっており、重要な役割を果たしている。我々は血管内皮グリコカリックスは構造的に不安定であるが、硝酸ランタンを用いた電子染色を行い走査型、透過型電子顕微鏡で描出する手技を確立している。平成28年度と同様の実験系でLPS投与後48時間後に肺、肝臓、腎臓とさらに心臓を加えた血管内皮グリコカリックスを評価した。その結果、各臓器の血管内皮グリコカリックスは敗血症群では脱落していたが、rTM治療群ではその構造は保たれていた。 以上より、本研究によってrTMが血管内皮グリコカリックスの傷害を抑制し、さらに生存率の改善に寄与している可能性を見出すことができた。
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