本研究は、集中治療室における特殊な感染症、特に低体温療法中に生じる感染症に焦点をあて、すでに我々が樹立している全血PCR法を併用し、これら特殊感染症、低体温下に生じる感染症の実態を把握し、有効かつ現実的な早期感染症診断マーカーの確立と治療介入の必要性を検証することを目的として計画した。
平成28年度は低体温症の合併症として生じる感染症の疫学情報を集積したほか、集中治療室で治療を受ける患者背景の基づく特殊感染症を把握し、個々の症例を中心に報告してきた。平成29年度はこれらを収集する中で、これらの感染症に生じる血液凝固障害が明らかとなってきたことから、播種性血管内凝固症候群に注目し、早期診断による効果ならびに、早期診断方法についての解析を平成28年度から引き続いて行ってきた。最終年度である平成30年度は、症例が蓄積されるにつれ、低体温管理下においては凝固障害が生じやすい可能性が示唆され、これは併発する感染症により増悪することが明らかとなってきたことより、さらに個々の症例を掘り下げて検討を加えた。
個々の症例を検討する中で、敗血症を中心とした重症感染症においては、国際的ガイドラインの整備がすすみ机上では標準的な治療が展開できる準備が整いつつあるものの、現実に目を向けると、本邦では集中治療医は依然として不足しており、そもそも地域においては集中治療室の整備さえ十分とはいえない現状があることが明らかとなってきた。従って、敗血症診療の質向上のためには、グローバルな視点にたったガイドラインだけではなく、地域での問題点を明らかとし、地域における敗血症診療体制を樹立することが急務であると考えられた。
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