研究課題/領域番号 |
16K20391
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研究機関 | 兵庫医科大学 |
研究代表者 |
井上 岳人 兵庫医科大学, 医学部, 研究生(研究員) (30772652)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | ライディッヒ細胞 / インターロイキン-18 / アポトーシス / デスレセプター経路 / エンドトキシン / 急性炎症 / ステロイド産生急性調節タンパク質 |
研究実績の概要 |
本研究はIL-18の急性炎症下における生殖細胞ならびに精巣内の各細胞に対する役割を明らかにし、生殖機能不全および性腺機能不全の治療応用へと展開するための研究基盤を確立することである。平成29年度の目標はマウスライディッヒ細胞由来TM3細胞IL-18のアポトーシスにおけるデスレセプター経路関連因子の発現への影響、及びステロイドホルモン産生能への影響を明らかにすることであった。実際には、前年度に行ったlipopolysaccharide (LPS)添加モデルにおけるデスレセプター経路関連因子の解析が終了し、ステロイドホルモン合成に関与するステロイド産生急性調節タンパク質(streroidogenic acute regulatory protein:StAR)の発現を確認した。結果,炎症刺激下においてライディッヒ細胞のアポトーシスが生じステロイドホルモンの産生能が低下することが確認された。また、この時TM3細胞ではIL-18は産生されず、マクロファージであるRAW264.7細胞ではIL-18の発現が増加したことから、炎症時のIL-18濃度上昇はマクロファージ由来であり、当初予定していたsiRNAによるIL-18ノックダウン実験はTM3細胞においては施行しないこととした。次に,IL-18のライディッヒ細胞への影響を検証するため、ライディッヒ細胞をrecombinant IL(rIL)-18で刺激し,その影響を解析した。高濃度のrIL-18はライディッヒ細胞のデスレセプター経路関連因子の発現を増加させ、caspase-8を介し、caspase-3の発現を活性化し,アポトーシスを誘起した。同時に高濃度のrIL-18刺激によってStARの発現が低下した。以上のことより,急性炎症下における精巣内の過剰なIL-18は生殖細胞のアポトーシスと同様に精巣の間質細胞に対してもアポトーシスを誘導し,ステロイドホルモン合成を低下させることが明らかとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
下記に示すように、いくつかの測定項目には変更が生じている。 ①ライディッヒ細胞のIL-18の発現に関して、先行研究では炎症刺激下でIL-18の発現が上昇することが報告されており、本研究においても炎症刺激下でIL-18の産生が増加することを想定していた。そのため培養液内にライディヒ細胞が産生したIL-18を検出できると予測したが、ELISA法では検出できず、リアルタイムPCRによるmRNAレベルでの解析でもIL-18発現の上昇は認められなかった。従って、TM3細胞ではIL-18遺伝子をノックダウンする必要性が無くなった為、当初予定していたsiRNAによる実験は施行していない。 ②培養液内のテストステロン値を確認する予定であったが、ELISA法にて検出できず、外部委託するも参考値しか検出できなかったため、StARタンパクの発現の解析に変更した。培養面積を増加させるなどして、回収量を増加させる必要があると考えている。 一方、TM3細胞、RAW264.7細胞それぞれの単独培養におけるrecombinant IL-18添加実験はほぼ予定どおり進行し、次年度の共培養実験の基礎となるデータが確立されていることから、全体の進捗状況としては概ね順調と考えている。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの解析により、ライディッヒ細胞はLPS刺激下でデスレセプター経路によりアポトーシスが促進されること、高濃度IL-18はLPSと同様にライディッヒ細胞のアポトーシスを促進し、ステロイド産生能を低下させる可能性が明らかとなった。一方でIL-18は細胞保護作用なども報告され、平成29年度の解析では低濃度のIL-18においてアポトーシス促進作用は認められず、アポトーシス抑制因子の発現増加が認められるなど、濃度による違いについても発見出来ている。従って、今後は①マクロファージが産生するIL-18以外の因子の存在下でもアポトーシスが促進され、ステロイド産生能力が低下するのかどうか、②アポトーシスが促進するIL-18濃度の閾値はどの程度か、を明らかにすべく、以下の実験を想定している。 <ライディッヒ細胞-マクロファージ共培養実験>recombinant IL-18刺激に対するライディッヒ細胞の感受性が確認できており、マウスマクロファージ由来RAW264.7細胞との共培養実験を行うことで、より生体に近い炎症状態を作成し、ライディッヒ細胞のステロイド産生能力に変化が認められるかを確認する。また、マクロファージへのsiRNA導入やノックアウトマウス由来のマクロファージにより、IL-18が存在しない状況を作成し、比較することで、IL-18の役割を確認する。 <エンドトキシン血症モデルへのIL-18中和抗体投与実験>recombinant IL-18投与によりマウスの精巣生殖細胞のアポトーシスに対する閾値を検証する。その後、エンドトキシン血症モデルで閾値を超えるIL-18濃度に対して中和抗体実験などを行い、アポトーシス抑制に寄与できるかを確認する。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初予定していたsiRNAに関する実験系が、目標を達成する為に最適な方法ではないと考え、実験が行われていないため、siRNAについての予算が未使用となり次年度使用が生じた。また、同様に平成28年度に予定していたマウス中和抗体モデルについても、中和抗体投与が最適な実験かどうか、もう少しin vitroでの解析を進める必要があると考えており、中和抗体投与実験が行われていないことも理由である。次年度は、これまでの解析でIL-18の閾値に関する検討などを追加する必要性が生じており、新たにrecombinant IL-18投与なども必要となっている。また、マクロファージへのsiRNA導入実験でもIL-18濃度を予定よりも低濃度、及び高濃度条件を追加して検討するため、それらの試薬購入に使用していく。
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