研究実績の概要 |
我々は昨年度までに、低酸素応答を司る転写因子HIF(hypoxia-inducible factor)を負に制御しているプロリン水酸化酵素PHDの阻害剤が、マウスのLPS誘発性敗血症性心筋症(SIC: Sepsis-induced cardiomyopathy)を軽減し予後を改善することを報告した。今年度はそのメカニズムにトリプトファン代謝におけるキヌレニン経路の最終代謝産物で、遠隔虚血プレコンディショニングの液性因子の一つであるキヌレン酸(KYNA)が関与しているのではないか、と考え検討した。 野生型雄マウスを用い、LPS 35 mg/kg ipにてエンドトキシンショックモデルを作製し、以下の実験を行った。①PHD阻害剤であるFG4592を投与したFG群(LPS投与4時間前と投与直後に各25 mg/kg po)とVehicle群を比較した。LPS投与7日後の生存率はvehicle群(n=15)で27%であったのに対し、FG群(n=18)では72%と著明に改善し (P=0.009)、LPS投与2時間後の血漿中KYNA濃度がFG群で有意に高かった(KYNA 154±62 , Vehicle 59±35 ,ng/ml, P=0.012 n=5)。②LPS投与24時間後にKYNA 2 mgまたはVehicleをivし、投与前後の左心室機能の変化率を比較すると、KYNAは LPSによって惹起された左心室機能不全を劇的に軽減した。③LPS投与直後にKYNA 20mg scしたKYNA群とVehicle群を比較した。LPS投与7日後の生存率はvehicle群(n=15)で33%であったのに対し、FG群(n=15)では67%と著しく改善した(P=0.049)。 PHD阻害剤によるエンドトキシンショックの予後改善のメカニズムの一部に、KYNAが関与していることが示唆された。
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