研究課題/領域番号 |
16K20420
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
高畑 佳史 大阪大学, 歯学研究科, 助教 (60635845)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 転写因子 / Sox9 / 軟骨細胞 |
研究実績の概要 |
骨芽細胞、軟骨細胞、脂肪細胞、筋芽細胞は共通の未分化間葉系細胞から分化していくことが予想されてはいたが、この分化過程のメカニズムを遺伝子レベルで明らかにしたのは筋芽細胞が始まりだった。1987年にMyoDが発見されbHLH型の転写因子が、未分化間葉系幹細胞から筋菅までの分化を支配することが示された。1994年になって脂肪細胞への分化を支配する転写因子として核内受容体の一つPPARγ2が同定された。そして1997年、ショウジョウバエの体節形成遺伝子の一つrunt にホモロジーを持つRunx2が骨芽細胞の分化を支配する遺伝子の一つとして登場した。さらに1999年に、軟骨細胞への分化に転写因子Sox9が必須であることが示された。 しかし、軟骨細胞分化過程におけるSox9の上流を制御する転写因子は未だ不明であり、シグナル伝達経路等も明らかにされていない。そこで、クロマチンに結合するたんぱく質を同定するための非常に有用なツールであるenChIP法を用いてSox9の上流を支配する転写因子の探索と同定を行い、 間葉系幹細胞からの軟骨細胞分化における分化決定シグナルと分子機構の解明を目的とした。 本年度では、まずenChIP法の条件の最適化を行った。enChIP法はDNA切断活性を持たないdCas9にゲノム上の特定の配列を認識するgRNAとともに導入することで、dCas9が結合するクロマチン領域を単離することができる。未分化間葉系細胞であるC3H10T1/2細胞にBMP2を刺激し、6時間後にSox9が最も誘導されることから、上流の転写因子がSox9 promoterに結合する時間条件を決定した。時間条件決定後Sox9遺伝子のプロモーター領域1kbを標的にgRNAを設計し、Sox9を誘導する特異的転写因子のスクリーニングを行なった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
現在までBMP2により誘導されるSox9遺伝子の上流で機能する転写因子を明らかにするためにenChIP法を導入し、実験条件の最適化は完了した。また実際に本方法を利用して複数のSox9誘導能を持つ転写因子を同定することができたので、成果は順調に進展していると考える。 しかし、BMP2が同定した転写因子にどのように作用するのかは分かっておらず現在も解析中で、今後明らかにしていく必要がある。今後は、BMP2による転写因子の発現量変化、細胞内局在、分子内修飾に着目して転写因子の機能の詳細を検討する。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、スクリーニングで得られた転写因子群が、実際にSox9誘導能を持つかどうかを検討するために、C3H10T1/2細胞にこれらの転写因子群の遺伝子導入を行いRT-qPCR法にて誘導能の解析を行う。さらにShRNAにより候補遺伝子のノックダウンを行い、Sox9の発現に対する効果を解析し、軟骨分化に対する役割を検討する。 またBMP2によるSox9の発現調節に関わる新規転写因子のシグナル間ネットワークの詳細と作用メカニズムを解明するために、ルシフェラーゼレポーターアッセイ、クロマチン免疫沈降、DNAプルダウンアッセイ法にて転写因子の機能の詳細を明らかにする。 さらにクローニングされた転写因子群は、軟骨の分化と形成に重要な転写因子であると考えられるので、その発現を促進する生理活性物質または小分子化合物を検索するスクリーニングシステムを開発する。ハイスループットスクリーニングを可能とするために、同定された各遺伝子の3’UTR 領域に、改良型GFPであるVenus遺伝子とルシフェラーゼ遺伝子を融合させたffLuc遺伝子を組み込んだノックイン細胞株を樹立する。この際、ノックイン細胞の作成に有効なCRISPR Pitch 法を用いる。作成したノックイン細胞株を用いて、低分子生理活性物質ならびに薬理活性化合物ライブラリをスクリーニングし、軟骨の形成と再生に有効な薬剤の探索を試みる。
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