本研究は唾液分泌障害機序の解明を目指しており、今回は唾液分泌における三叉-自律神経系によって調節される唾液腺血流増加反応の役割を明らかにすることを目的とする。 ウレタン麻酔したラットを用いた実験から、舌神経の求心性電気刺激により耳下腺・顎下腺・舌下腺では急峻な血流増加反応が誘発された。各唾液腺の血流増加反応は耳下腺と比較して顎下腺及び舌下腺で有意に高かった。またその際、顎下腺・舌下腺からの著しい唾液分泌が認められ、全唾液量に占める顎下腺・舌下腺由来の混合唾液の割合は約80%だった。NO合成酵素阻害薬であるL-NAMEの静脈内からの持続投与により舌神経刺激により誘発される耳下腺・顎下腺・舌下腺の血流増加反応は約60~70%程度に抑制された。またその際の唾液分泌は顎下腺・舌下腺の混合唾液は約33%に抑制され、耳下腺由来の唾液は約73%に抑制された。したがって、三叉神経の感覚入力による反射性の唾液分泌活動では、各唾液腺の分泌活動に応じた血流増加反応が誘発され、唾液分泌と血流増加反応は連動して調節されることが示唆された。また唾液腺における血流増加反応は唾液分泌を促す上で極めて重要であることが考えられた。 唾液腺で生じる副交感神経性血流増加反応の末梢性神経機構については、アセチルコリンとVIPを神経伝達物質とする節後線維が関与することが明らかとなっている。アセチルコリン及びVIPの静脈内からの持続投与により各唾液腺では舌神経刺激時と同様に急峻な血流増加反応が誘発された。またアセチルコリンは唾液分泌を促したが、VIPによる唾液分泌はほとんど記録されなかった。これらの結果から唾液腺においてアセチルコリンは血管系と腺房細胞両方の機能に関与し血流増加反応と唾液分泌を促すのに対して、VIPは血流増加反応には関与するものの少なくとも唾液の水分泌には積極的に関与していないことが示された。
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