口腔領域を中心とする先天性疾患Gorlin(ゴーリン)症候群は比較的稀な疾患でHedgehogの受容体であるPTCH1を原因遺伝子とし、骨形成異常や外胚葉系異常、また悪性腫瘍を有す症候群であるが、未解明な点が多く、更なる病態解明が治療法の開発には必須である。疾患特異的iPS細胞の樹立は病態解明、治療法の開発、薬剤の選択など大きな貢献が期待できる。本研究ではGorlin症候群より疾患特異的iPS細胞を作成し、骨異常を中心に病態解明を行うこととした。実験の結果、コントロールiPSCと比べて、疾患iPS細胞は石灰化の亢進が認められるという実際に現れる症状に現れる表現系を示した。しかしながら中期から後期の分化マーカーであるSP7とBGLAPの発現は低下していた。Hhシグナル関連分子の発現を解析すると、コントロールiPSCでは抑制型GLI3タンパク質のみが検出されたが、Gorlin-iPSCでは、抑制型GLI3タンパク質と活性型GLI3タンパク質の両方が検出された。PTCH1変異による下流シグナルの異常をさらに検索するためにRNA-seq解析を行ったところ、Gorlin-iPSCにおいては、転写因子FOXO1、ID4、CDX1の発現がコントロールiPSC と比べて有意に上昇していた。以上より、Gorlin症候群を引き起こすPTCH1の変異は、骨芽細胞分化初期には促進的に、後期には抑制的に働き、石灰化を亢進させることが示唆された。また、これらの異常は、GLI3活性型と抑制型の発現バランスの変化に加えて、骨形成・石灰化に関わる他の転写因子群を介して引き起こされる可能性が示された。
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