研究課題/領域番号 |
16K20429
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研究機関 | 日本大学 |
研究代表者 |
大橋 晶子 日本大学, 歯学部, 助教 (00571019)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | テトラヒドロビオプテリン / セロトニン / ドーパミン |
研究実績の概要 |
うつは脳内セロトニン(5HT)量の低下により引き起こされる脳神経系の失調であり,処方される抗うつ薬の70%が程度が5HT再取り込み阻害作用を持つSSRIである。しかし,その遅効性,副作用,低い寛解率が問題となっており,これらは,5HTの再利用を長期間抑制することによる,脳内5HT量の枯渇の結果と考えられる。5HT生合成を律速する補酵素テトラヒドロビオプテリン(BH4)の前駆体セピアプテリン(SP)は効率よく脳内BH4レベルを上昇させることから,SPの末梢投与における5HT生合成に与える影響について,主にin vivoにおいて検証することを目的としてる。 平成28年度では,SPの薬理作用をSP末梢投与後の脳内SP,BH4,5HTとその代謝産物,およびDAとその代謝産物を経時的に定量することで生化学的に解析を行った。その結果,(1)SP投与後,脳内BH4レベルは急激に上昇した後,速やかに減少したが,5HTとDAおよびこれらの代謝産物は経時的に増加した。また,このBH4,5HT,DAおよび代謝産物の増加はSP投与量に依存した。これは,SPが脳神経細胞内のBH4レベルを上昇させ,5HT,DA生合成を促進させた事を強く示唆した。この5HTレベルの上昇が5HT生合成活性の促進によることを検討するために,(2)脳内5HT生合成活性を,律速酵素トリプトファン水酸化酵素(TPH)の活性によって測定したが,SP投与が5HT合成の基質,トリプトファン(Trp)レベルを変動させるため,5HT合成活性を定量的に測定することができなかった。Trp代謝の95%以上がキヌレニン経路に導入されるため,血中および脳内Trpの変動はキヌレニン経路代謝産物レベルの変動を伴う。Trp代謝産物であるキノリン酸とキヌレニン酸は強い中枢効果を示すことが知られている。SP投与による脳内Trpレベル変動はSP投与による治療を考える上で非常に有用である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
研究計画では,平成28年度中にSP投与後の脳内5HT合成活性を測定することで,SPが脳内5HT神経細胞内においてBH4濃度を上昇させ,その結果5HT合成活性を促進させることを解析する予定であった。しかし,5HT合成の基質トリプトファンの脳内レベルがSP投与により変動したため,5HT合成活性の促進が基質量の増加によるものか,補酵素量の増加によるものかを区別しなければならなかった。脳内Trpが増加しないSP投与量,アッセイの時間等を検討したことにより,当初の計画より遅れが生じた。様々な条件を検討したが,SP投与後で脳内Trpが変動しない条件を決定することは困難であり,SP投与後の5HT合成活性の変化がTrpとBH4のどちらによるものかを区別することはできなかった。現在はDA合成活性に着目し,モノアミン生合成活性の促進が補酵素BH4レベルの増加によることを確かめる予定である。
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今後の研究の推進方策 |
前年度に引き続き,SP投与後のモノアミンレベルの上昇が補酵素BH4の補充によって引き起こされるモノアミン生合成活性の促進であることを確かめるために,DA合成活性に着目しこれを検討する。DA生合成の律速酵素であるチロシン水酸化酵素(TH)はTPH同様にBH4を補酵素とし,脳内BH4レベルはTHに対して飽和していないことが知られている。そこで,SP投与後の脳内BH4蓄積とTH活性の対応関係を解析する。 さらに,SPの末梢投与による脳内BH4レベルの増加が,神経細胞内における平衡型核酸輸送体(ENT)によるSP取込みとBH4への変換,蓄積によることを,5HT神経細胞,DA神経細胞におけるENT発現を抗ENT抗体と抗TPHと抗THとの二重染色によって確認する。
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次年度使用額が生じた理由 |
脳内5HT合成活性測定に関する検討とその分析に時間を要したために,DA合成活性の測定が遅れており,HPLC/電気化学検出器の使用が当初の計画よりも少なかった。このため,HPLC/電気化学検出器に関する維持費等が使用予定額よりも少なくなったと考えられる。また,実験動物を用いた合成活性の測定に関する研究が計画よりも遅れているため,マウスの購入量,および投与するSPなどの試薬の購入量が少なかったと考えられる。
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次年度使用額の使用計画 |
脳内BH4濃度の上昇と脳内DA合成活性の対応関係の解析を行った後,神経細胞内におけるSP取込みへの核酸輸送体(ENT)の関与を免疫組織化学的・生化学的に解析するために,(1)SPの血液脳関門透過性を血液脳関門のin vitro再構成系モデルBBBキットを用いて検討する。(2)神経細胞がSP輸送能を持つENTを発現することを免疫組織化学的に解析するする。(3)神経細胞のSP取込みがENTによることを生化学的に検証するする。これらを行うために,BBBキットの購入,免疫染色に必要な抗体の購入,マウスに投与する試薬(SP,BH4,阻害剤(NSD-1015,NBMPR))の購入,実験動物の購入,および生化学的な分析には,HPLC/蛍光検出器とHPLC/電気化学検出器の運転と維持に関わる費用が必要となる。また,研究成果の発表のため,学会への参加費,論文発表のための英文校閲料が必要である。
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