研究課題/領域番号 |
16K20430
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研究機関 | 愛知学院大学 |
研究代表者 |
友寄 大介 (兒玉大介) 愛知学院大学, 薬学部, 講師 (40549979)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 神経障害性疼痛 / 骨粗鬆症 / NK1受容体アンタゴニスト |
研究実績の概要 |
神経障害性疼痛は神経の傷害あるいは機能障害を原因とする慢性疼痛の一種である。神経障害性疼痛患者には痛覚過敏やアロディニアに加え、骨粗鬆症を含む種々の症状が現れることが知られている。本研究は神経障害性疼痛における骨減少のメカニズムの解明、痛覚過敏と骨減少が相互に悪影響を及ぼしている可能性の検討を通じて、これらの症状に対する新たな治療戦略を見出すことを目的としている。 前年度までに以下の結果が得られた。神経障害性疼痛の動物モデルである坐骨神経部分結紮モデルマウス(partial sciatic nerve ligated mice: PSNLマウス)において、神経結紮側後肢に逃避閾値の有意な低下が見られ、坐骨神経支配領域である大腿骨遠位部に骨量の減少および骨強度の低下が示唆された。また、これらの症状に対する鎮痛薬の影響を検討した結果、臨床において神経障害性疼痛治療薬として広く使用されているpregabalinはPSNLマウスの痛覚過敏を有意に緩和する一方で、骨量に対しては全く影響を与えなかった。NK1受容体の遮断薬であるnetupitantはPSNLマウスにおける痛覚過敏および骨量減少を有意に緩和した。 平成30年度においては、主に大腿神経によって支配される大腿骨骨頭部の骨解析を行った。大腿骨遠位部と同様に、PSNLマウスでは骨頭部に骨量減少が見られ、この症状はpregabalinによって影響を受けず、netupitantによって改善された。これらの結果から、神経傷害によって、近縁部の神経の活動が亢進し、NK1受容体を介して痛覚過敏および骨量減少を引き起こす可能性が示唆された。またNK1受容体遮断薬が骨粗鬆症を伴う神経障害性疼痛に対して有効な治療薬となる可能性を示唆された。これらの成果について現在、論文を投稿中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は神経障害性疼痛における骨量減少のメカニズムの解明、痛覚過敏と骨量減少が相互に悪影響を及ぼしている可能性の検討を通じて、これらの症状に対する新たな治療戦略を見出すことを目的としている。 平成28, 29年度の研究により、神経障害性疼痛モデルマウスの一種である坐骨神経部分結紮モデルマウス(partial sciatic nerve ligated mice: PSNLマウス)において、痛覚過敏および骨量減少が長期に持続することが示され、神経障害性疼痛に汎用されるpregabalinによって痛覚過敏は緩和されるが、骨量減少は全く影響を受けないこと、NK1受容体遮断薬であるnetupitantによって痛覚過敏、骨量減少が共に改善することが明らかとなった。NK1受容体遮断薬は現在、aprepitantが中枢性制吐薬として承認・販売されているが、鎮痛薬としては使用されていない。これらの結果は、NK1受容体遮断薬が骨粗鬆症を伴う神経障害性疼痛に対して従来の鎮痛薬より有用な治療薬となる可能性を示唆するものであった。 平成30年度の研究では、PSNLマウスにおいて大腿神経によって支配される大腿骨骨頭部においても骨量減少が見られ、pregabalinによって影響を受けず、netupitantによって改善されることが明らかとなった。またnetupitantによる鎮痛作用と骨保護作用の間には有意な相関関係が見られなかった。骨粗鬆症治療薬であるPTHやビスホスホネート薬は骨量を対照群と同レベルまで回復させ、痛覚過敏には影響を与えなかった。以上の結果から、神経部分損傷により傷害を受けていない近傍の感覚神経活性が亢進し、それぞれ独立した症状として痛覚過敏および骨量減少を起こしていることが示唆された。 本研究の目的は概ね達成されており、研究の進捗状況は順調であると思われる。
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今後の研究の推進方策 |
本研究は神経障害性疼痛における骨減少のメカニズムの解明、痛覚過敏と骨減少が相互に悪影響を及ぼしている可能性の検討を通じて、これらの症状に対する新たな治療戦略を見出すことを目的としている。 これまでの研究により神経部分損傷により傷害を受けていない近傍の感覚神経活性が亢進し、それぞれ独立した症状として痛覚過敏および骨量減少を起こしていることが示唆された。また感覚神経から放出される神経伝達物質であるサブスタンスPの受容体であるNK1受容体の遮断薬が骨粗鬆症を伴う神経障害性疼痛に対して従来の鎮痛薬より有用な治療薬となる可能性が示されており、本研究の目的は概ね達成されたものと考えられる。 今後、神経傷害性疼痛による骨量減少の治療法についてさらに検討するために、代表的な神経傷害性疼痛治療薬であるアミトリプチリンの作用を調べる予定である。アミトリプチリンは三環系抗うつ薬の一種であり、ノルアドレナリンやセロトニンの再取り込みを阻害することが知られている。ノルアドレナリンやセロトニンの過剰により骨量は減少することが知られており、うつ病患者において骨折リスクを上昇させることが報告されている。これらの事から、アミトリプチリンは神経傷害性疼痛に対して鎮痛作用を示す一方、骨量に対しては悪影響を与えることが予想される。 アミトリプチリンの鎮痛作用は脊髄のα2アドレナリン受容体を介していることが知られている。また交感神経の過剰興奮による骨量減少にはβ2アドレナリン受容体が重要な役割を果たしていると考えられている。これらの事から鎮痛作用と骨に対する副作用は異なる受容体を介していることが予想される。以上より、平成31年度においてはアミトリプチリンとβ2遮断薬の併用により、鎮痛作用には影響を与えず、骨に対する副作用のみ軽減する可能性について検討する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
試薬メーカーのキャンペーン等の利用により試薬が当初の予定より安価に購入できたため。次年度に繰り越した金額については試薬等の消耗品費として使用する予定である。
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