神経障害性疼痛は神経の傷害あるいは機能障害を原因とする慢性疼痛の一種である。神経障害性疼痛患者には痛覚過敏に加え、骨粗鬆症を含む種々の症状が現れる。本研究は神経障害性疼痛における骨減少のメカニズムの解明、痛覚過敏と骨減少が相互に悪影響を及ぼしている可能性の検討を通じて、これらの症状に対する新たな治療戦略を見出すことを目的としている。 前年度までに以下の結果が得られた。神経障害性疼痛の動物モデルである坐骨神経部分結紮モデルマウス(partial sciatic nerve ligated mice: PSNLマウス)において、神経結紮側後肢において痛覚過敏とともに、大腿骨遠位部(坐骨神経支配領域)および大腿骨骨頭部(大腿神経支配領域)に骨減少が見られた。神経障害性疼痛治療薬として繁用されるpregabalinはPSNLマウスの痛覚過敏を有意に緩和する一方で、骨量に対しては全く影響を与えなかった。NK1受容体遮断薬netupitantは痛覚過敏、骨減少を有意に緩和した。これらの結果から、神経傷害によって、残存した神経および近縁部の神経の活動が亢進し、NK1受容体を介して痛覚過敏および骨減少を引き起こす可能性が示された。またNK1受容体遮断薬が骨粗鬆症を伴う神経障害性疼痛に対して有効な治療薬となる可能性が示された。 令和元年度においては三環系抗うつ薬amitriptylineがPSNLマウスの痛覚過敏および骨減少に与える影響を検討した。Amitriptylineによって用量依存的な鎮痛作用が見られた。一方、中程度の用量で骨減少を抑制したものの、高用量では骨量は減少し、骨に対しては正負両方の作用を示した。薬理学的検討の結果、骨量増加はα2受容体が、骨量減少にはβ受容体が関与していることが示された。以上より、amitriptylineをより強い鎮痛作用を目的として高用量で用いることは骨折リスクの増大につながる恐れがあり、β遮断薬との併用により、そのリスクが軽減される可能性が示された。
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