本研究は、Sam68というRNA結合タンパクの口腔がんにおける機能解析をすすめ、転移や予後を予測する新規バイオマーカーとしての有用性を検討すること、また正常細胞との相違を見出し、Sam68やそれによるmRNA制御機構を標的とした新しいがんの治療法を開発することを目的とした。 1) 口腔扁平上皮癌(OSCC)におけるSam68の発現様式の検討 まず、正常組織とOSCC組織でのSam68発現様式の比較を行ったところ、OSCC組織における細胞質内のSam68の発現は、正常口腔粘膜に比較して増加していることが明らかとなった。核内のSam68の発現は有意差を認めず、OSCCの悪性形質にはSam68の細胞質内発現が関与していることが示唆された。次に、OSCC組織のSam68発現様式と臨床病理学的因子の関連を検討したところ、頸部リンパ節転移をきたした症例のOSCC組織では、細胞質内のSam68が高発現していることがわかった。このことから、Sam68の細胞質内発現の増加がOSCCの転移能に寄与していることが示唆され、バイオマーカーとして有用である可能性が示された。 2) OSCCにおけるStress Granulesの挙動解析 正常細胞とがん細胞株にストレス(ヒ素)を与え、Stress granules(SG)マーカーを蛍光免疫染色し、SGの挙動を共焦点レーザー走査型顕微鏡で観察した。正常細胞とがん細胞のいずれにおいても、ヒ素を付与した際にほぼ100%の細胞でSGが形成された。SGの形態と個数、分布を観察したところ、正常細胞とがん細胞では、SGの大きさ、数に差異が認められた。このことは、正常細胞とがん細胞ではストレスに対するSGの挙動が異なり、ストレス下でのmRNA制御機構にも違いがあることが示唆された。この詳細を明らかにできれば、これを標的とした新規治療方法開発へ繋がる可能性が示された。
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