研究実績の概要 |
本研究は、我が国において難治性疾患の一つに挙げられる、進行性下顎頭吸収( Progrssive Condylar Resorption:PCR)の病態解明を目的としている。PCRは、骨格性下顎後退症に対して行う下顎骨延長術や下顎枝矢状分割術といった顎矯正手術後に下顎頭が進行性に吸収する病態をいい、手術後の後戻りの原因の一つとなっている。国内外でPCRの原因解明を目的とした基礎研究はなく、日常の臨床において対処法がないのが現状である。実際に臨床で経験したPCR症例は顎関節症の既往があり、さらに低容量ピルの服用をしている女性に多く見られた。顎関節症では復位を伴わない関節円板の前方転位症例がほとんどだった。そこで今回、卵巣を摘出した家兎を用いたPCRモデルを作製し、家兎の顎関節腔内の滑液を分子生物学的に解析を行うことでPCRの病態を解明することを目的とした。卵巣摘出した家兎を用いた下顎頭吸収モデルの作製を初年度に行い、卵巣を摘出していない家兎の下顎頭の吸収の程度を比較した。さらに下顎頭に対してメカニカルストレスを与えた後に待機期間を設け、待機期間1週、2週、4週のそれぞれの期間で比較を行なった。卵巣を摘出した家兎の下顎頭では明らかに吸収量が多く、その範囲も大きかった。しかしながら、卵巣を摘出した家兎で待機期間別に比較したところ、2週目をピークとして4週目の下顎頭の吸収量は減少傾向であった。このことから、エストロゲンが下顎頭吸収に関与することが示唆されるも、修復機構は正常に働いていることが考えられた。さらに顎関節滑液から破骨細胞誘導系の炎症性サイトカイン(IL-1β,IL-6,TNF-α)の検出を試みたところ、卵巣摘出した家兎の顎関節では有意にそれぞれの炎症性サイトカインの蛋白量が多く検出された。病理組織学的所見においても、卵巣摘出した家兎の下顎頭吸収部では破骨細胞が多く認められた。
|