活性型スフィンゴ脂質として注目されているSphingosin-1-phosphate(S1P)は、生理活性物質として腫瘍細胞の増殖、浸潤および細胞移動の機能亢進などに関与するとされている。S1Pの産生や調節に深く関わるSphingosin kinase-1(SphK1)は、その発現が他臓器において細胞増殖、アポトーシス、血管新生、予後等への関連が報告されてきたが、口腔扁平上皮癌におけるSphK1高発現の正確な役割は十分に明らかにされていない。本研究では、口腔扁平上皮癌におけるSphK1発現と腫瘍細胞の増殖、浸潤および生命予後との関係を明らかにすることを目的とした。SphK1の高発現群と低発現群による比較検討では、腫瘍細胞の増殖に関して関連性を見出すことはできなかったが、SphK1の高発現群が浸潤様式の強い浸潤能を示す口腔扁平上皮癌と一致してみられ、また年齢、性別、原発部位およびステージ分類とは有意差を認めなかったが、臨床的に生命予後への影響を及ぼす転移との関連性が示唆された。多変量解析法では、SphK1が独立した予後決定因子ではなかったが、SphK1発現は口腔扁平上皮癌の腫瘍進展を評価するうえで重要な客観的因子となり、また生命予後を推測し得る可能性が考えられた。SphK1発現は、口腔扁平上皮癌患者の適切な治療選択の指標に役立ち、さらに治療抵抗性患者に対する今後の標的因子となり得る可能性が示唆された。
|