研究課題/領域番号 |
16K20453
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
岡本 基岐 大阪大学, 歯学部附属病院, 医員 (60755354)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 覆髄 / 象牙質再生 / 低酸素誘導因子 |
研究実績の概要 |
歯髄の創傷治癒機構はいまだに解明されておらず、現在、覆髄剤として用いられている薬剤はその治癒機転に基づいているものではない。窩洞形成後のラット歯髄組織において特異的な発現をしているTissue Inhibitor of Metalloproteinase 1 (TIMP-1) は全身の組織において創傷治癒に関わっており、その機構の一端を低酸素誘導因子, Hypoxia inducible factor (HIF) が担っていることが報告されている。しかし、TIMP-1およびHIFの歯髄の創傷治癒過程におけるは役割はいまだ明らかにされていない。 そこで、本研究ではTIMP-1およびHIF分子が歯髄の創傷治癒に与える影響を詳細に検討し、さらに siRNA を応用したin vivo直接覆髄モデルを開発し、TIMP-1およびHIF1分子の機能解析方法を確立することで、第三象牙質形成機構の解明および生物学的覆髄剤開発を目的としている。 平成28年度は、TIMP-1が歯髄の創傷治癒に与える影響について評価をおこなった。すなわち、TIMP-1がヒト歯髄幹細胞の増殖能、遊走能、分化能、ならびに石灰化基質形成能に与える影響を評価した。その結果、ヒト歯髄幹細胞の増殖能、遊走能、分化能、ならびに石灰化基質形成能が促進することが明らかとなった。続いて、TIMP-1と低酸素誘導因子の関係性を明らかにするため、ラット臼歯にTIMP-1 、HIF-1安定剤であるDFOを用いて直接覆髄実験をおこない、マイクロCTによる画像解析、病理組織学的評価を行った。コラーゲンスポンジに含浸したTIMP-1、DFOともに歯髄の被蓋硬組織を誘導することが明らかとなり、歯髄の創傷治癒メカニズムにおいてもTIMP-1、低酸素誘導因子が重要な役割を果たすことが明らかとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成28年度の研究実施計画に基づき、TIMP-1および低酸素誘導因子が歯髄の創傷治癒過程に与える影響の検討を行った。 1.TIMP-1がヒト歯髄細胞の創傷治癒に関わる機能である、細胞増殖能 (WST-1 assay)、細胞遊走能 (wound healing assay)、細胞分化能 (ALP staining)ならびに石灰化基質形成能(Alizarin red staining)、さらにHypoxia inducible factor-1 (HIF-1α) の遺伝子発現 (Real-time PCR) に与える影響の検討を行った。TIMP-1により増殖能、遊走能、分化能、石灰化基質産生能ともに促進されることが明らかとなった。さらに、Real-Time PCRによる遺伝子発現の検討によりヒト歯髄細胞においても、TIMP-1 刺激によりHIF-1α遺伝子の発現が上昇することが明らかなった。このことから、低酸素誘導因子がTIMP-1によるヒト歯髄細胞の創傷治癒に関わる機能の促進に関係していることが考えられた。 2.8週齢雄性Wistar系ラットの臼歯に実験的窩洞を形成し、TIMP-1およびHIF-1α安定剤と考えれているDFOを直接覆髄材として応用し、歯髄の創傷治癒に与える影響を検討した。TIMP-1およびDFOは市販の直接覆髄剤であるProRoot MTAと比較して硬組織形成量は少ないものの、露髄面を完全に覆う、緻密度の高い被蓋硬組織を誘導することが組織学的な検討およびマイクロCTを用いた画像解析により明らかになった。
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今後の研究の推進方策 |
今後はHIF-1αのsiRNAを用いて、TIMP-1 刺激により活性化されたヒト歯髄細胞の機能がどのような影響を受けるか検討する。さらに上記の結果をin vivoの覆髄モデルに応用することで、TIMP-1、HIF1α、歯髄の創傷治癒の関係性を明らかにし、siRNAを用いた覆髄実験モデルの開発を行う予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
生じた次年度使用額は実験動物の値段変動に起因するものである。
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次年度使用額の使用計画 |
生じた次年度使用額は引き続き実験動物の使用に用いる予定である。
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