当該年度は、iPS細胞から分化誘導させた歯根膜幹細胞様細胞(培養方法は前年度に確立)の組織再生能について、歯周組織傷害モデルを用いて解析を行った。前年度からN数を増加させて解析を行った結果、ネガティブコントロールと比較して、歯根膜幹細胞様細胞を移植した群では歯根膜様または骨様の組織形成が認められる個体もあったが、その結果は一定したものではなかった。この原因として、足場材の検討が不十分であったと考えられる。歯周組織形成における過去の報告から本実験ではゼルフォームを用いたが、β-TCPなどの他の足場材についても検討する必要がある。これは、今後の検討課題である。 また当該年度は、歯根膜幹細胞様細胞への分化誘導のキーとなる細胞外基質の同定についても検討した。本実験では、iPS細胞から歯根膜幹細胞様細胞への誘導においてヒト歯根膜細胞の細胞外基質を、ネガティブコントロールとしてヒト皮膚線維芽細胞の細胞外基質を用いた。そこで、ヒト歯根膜細胞ならびにヒト皮膚線維芽細胞のマイクロアレイ解析にて比較検討し、ヒト歯根膜細胞にて発現の高いBMP4、IGF2、NTN4、RSPO2、Wnt5aの5つの因子をピックアップした。これらの因子にてコーティングした培養皿上にiPS細胞から誘導した神経堤細胞様細胞を播種し、2週間培養してそれぞれの細胞について遺伝子解析を行った。その結果、IGF2、NTN4、RSPO2コーティング群では歯根膜細胞マーカーであるPOSTNの発現が歯根膜幹細胞様細胞と同程度まで上昇した。その一方で、他の歯根膜細胞マーカーの発現上昇は認められなかった。細胞外基質は複数の因子から組成されていることから、今回ピックアップした因子を複数混和させることで、歯根膜幹細胞様細胞を分化誘導できる可能性が考えられる。
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