咬耗や加齢変化によって菲薄化したエナメル質に過度な咬合力が加わると,エナメル質から象牙質へ達するマイクロクラックが生じる可能性がある.また,咬合が関与する非う蝕性の歯頸部硬組織欠損(NCCL)は,アブフラクションと定義される.咬合力により歯頸部に応力が加わり,化学的溶解や物理的破壊が引き起こされ,歯頸部歯質の欠損が生じると考えられている.アブフラクション実験モデルをマイクロCT法を用いて経時的解析を行うことで,①酸蝕を想定した脱灰による歯頸部クラックとミネラル変化,②ブラキシズムを想定した荷重による歯頸部クラックとミネラル変化についての3次元解析を進めた.NCCLを有するヒト抜去小臼歯を人工脱灰液中に14日間浸漬後,マイクロCTを用いて撮影を行った.脱灰前後のマイクロCT像を比較した結果,全体的なミネラル低下を示し,特に歯冠側面やCEJ下根面の顕著なミネラル低下が認められた.さらに微細なクラックを観察するため,エナメル質、象牙質ブロックに荷重負荷後の高解像度マイクロCT撮影を行ったところ,数マイクロメートルのクラックの3次元的抽出を行うことが可能であった. また,酸暴露への対応として,各種歯面塗布材をエナメル質または象牙質面に応用し,脱灰後の変化を確認した.S-PRG フィラー含有ペーストがエナメル質の脱灰抑制に効果的であることが明らかとなり,マイクロPIXE解析からSrがエナメル質脱灰抑制に重要な役割を果たす可能性が示唆された。また、ポリマーを基にした試作知覚過敏抑制材のフッ化物濃度を増加させることで,根面象牙質の脱灰抑制効果が高くなることが示唆され,その効果はシュウ酸の含有によって強化されることが示唆された.
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