研究課題/領域番号 |
16K20465
|
研究機関 | 日本大学 |
研究代表者 |
遠藤 肇 日本大学, 歯学部, 専修医 (50732880)
|
研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2018-03-31
|
キーワード | ユニバーサルアドヒーシブ / リン酸エッチング / 接着耐久性 / 象牙質 / 接着疲労耐久性試験 |
研究実績の概要 |
コンポジットレジンによる修復治療は、現在の歯科医療を支える重要な治療法のひとつであるものの、修復物および接着界面の経時的劣化は避けがたいものである。特に、接着界面の耐久性は、化学的、生物的および物理的な劣化因子に影響を受ける。これらの因子が複雑に絡み合うことで劣化が進行するものと考えられている。そこで、口腔内で繰り返し生じる物理的因子に着目、最大破折抗力以下の繰り返し荷重負荷を再現したFatigue試験からユニバーサルアドヒーシブ接着システムの接着耐久性について検討するとともに他の劣化因子を組み合わせることで接着界面を構成する部材の化学的、機械的分析から、その接着界面の"質"が破壊プロセスに及ぼす影響を解明することを目的とした。ユニバーサルアドヒーシブシステムは異なる被着体に対して前処理を不要とするとともにエナメル質および象牙質いずれの歯質に対してもトータルエッチおよびセルフエッチとしての使用が可能である。ユニバーサルアドヒーシブに含有されている機能性モノマーは歯質のアパタイトと化学的な接着性を有するため、象牙質面へリン酸エッチングを行うことで化学的接着に必要なアパタイト成分の脱灰とともにモノマー成分の不完全な浸透が懸念されるところであり、その術式においても議論が分かれるところである。そこで、口腔内で生じている連続的な過重負荷を再現した接着疲労耐久性試験に着目し、ユニバーサルアドヒーシブシステムの接着性とともにアドヒーシブ塗布に先立ったリン酸エッチングが接着耐久性に及ぼす影響について、接着疲労耐久性試験から評価する。接着疲労耐久性試験とは、試験片に臨界点未満の繰り返し荷重を規定の回数負荷し、試験片の生存あるいは脱落、破壊から負荷荷重を段階的に増減することで部材の機械的性質あるいは耐久性について評価する試験法である。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
接着疲労耐久性試験を用いて、以下の項目について検討を行った。 1.リン酸処理の有無がユニバーサルアドヒーシブシステムの接着疲労耐久性に及ぼす影響。 2.リン酸処理時間を短縮した際の接着疲労耐久性。 3.接着試片の長期水中保管後の接着疲労耐久性。 上記の検討から、限定した物理的、生物学的因子で口腔環境を単純化した実験系からユニバーサルアドヒーシブシステムの接着疲労耐久性および破壊メカニズムを明らかにした。また、安全かつ信頼性の高い接着技法を確立した。
|
今後の研究の推進方策 |
本研究の接着疲労耐久性試験から得られる結果および破壊形式は、一定荷重負荷試験から得られるものと異なり、口腔内で生じている現象をより正確に反映できる可能性がある。また、接着界面付近への繰り返し荷重によって部材に蓄積した塑性変形および亀裂伝播のメカニズムは、接着界面の"質"に影響を受ける可能性が考えられる。この接着の"質"を評価するために、微小硬さ試験、ラマン分析を行い、接着疲労耐久性試験から得られる破壊形式との関連性について分析する。 1.微小硬さ試験(Nanoindentation test)歯面のリン酸エッチング処理(0、3,10および15秒)後、製造者指示条件に従ってアドヒーシブ塗布および光重合レジンを充填した試片をエポキシ樹脂に包埋、縦切した後、鏡面研磨を行い、微小硬さ試験用試片とする。この試片に対して微小硬さ試験機(ENT-1100a、Elionix)を用いて、圧痕を付与し、微小硬さおよびYoung's modulusを求める。 2.ラマン分光分析 微小硬さ試験と同様に製作した試片に対して、ラマン分析を行う。これによって、レジンモノマーの浸透性について検討する。 本研究における接着疲労耐久性試験および接着界面の化学的、機械的分析は、臨床歯科医に新たな情報を提供するとともに接着歯学の発展に貢献するものと思われる。また、これらの総合的な検討によって修復物の寿命予測を可能にするとともに安全で質の高い新規材料の開発や接着技術の発展に繋がることで患者満足および医療経済に資する点からも意義のあるものと思われる。
|