研究課題
歯髄炎に起因する口腔顔面の異所性疼痛がどの様なメカニズムで引き起こされるかについては不明な点が多く残されている。これまで、歯髄炎が引き起こされると、炎症歯髄を支配する三叉神経節細胞活動が著しく亢進することにより三叉神経節細胞にToll-like Receptor 4(TLR4)が発現し、舌に異所性異常疼痛が発症することを報告した。それだけでなく、三叉神経節細胞からはHSP70だけでなく、種々の神経ペプチドや一酸化窒素なども放出され、周辺部に存在する三叉神経節細胞の活動性を増強させることも明らかにした。このような結果から、TLR4を介した三叉神経節細胞どうしの機能的な相互作用が異所性異常疼痛の発症に対して重要な役割を成している可能性が示された。最近の報告では、TLR4を介する情報伝達系にはNFkBを介する系とマップキナーゼ(MAPk)を介する系が存在することが報告され、申請者らが解明したTLR4を介した三叉神経節内における情報伝達に対してこれらの系が関係する可能性が強いと考えられる。臨床では歯髄に慢性的な炎症が引き起こされると、歯髄以外の部位(顔面皮膚、顎関節、歯根膜、舌あるいは口腔粘膜)に異所性異常疼痛として症状が生じる場合があるが、口腔顔面痛を熟知していない歯科医師は、このような異常疼痛を口腔や顔面痛による疾患と誤認し、誤った治療を行ってしまうことがある。歯髄炎に起因する口腔顔面領域の異所性異常痛覚は症状が多岐にわたるため、疾患箇所以外に異所性異常疼痛という形で全く異なる部位に慢性の痛みを引き起こす。そのため、正確な審査・診断を困難にし、臨床上非常に大きな問題を引き起こすことがある。歯髄炎に伴う異所性異常疼痛を解明することは、原因不明の口腔顔面痛により苦しんでいる患者に適切な治療を施し、不適切な歯科治療から患者を救うことに役立つと考えられる。
3: やや遅れている
歯髄炎モデルを作製し、舌異常疼痛が発症しているラットの三叉神経節において、舌を支配する三叉神経節細胞にNFkBおよびMAPkのファミリーである、リン酸化ERK、リン酸化p38およびリン酸化JNKの発現亢進があるかどうかを明らかにし、また同時にTLR4の阻害薬を三叉神経節内に投与し、三叉神経節細胞における各ターゲット分子の発現変化、および舌の機械的および熱刺激に対する行動薬理学的解析も行う予定であったが、免疫組織学手法におけるデータ収集に時間を割いており、行動薬理学的解析およびWestern Blot法を用いた定量的解析に遅れを生じている。
今後の研究の推進方策として、28年度の計画であったNFkBおよびMAPkのファミリーである、リン酸化ERK、リン酸化p38およびリン酸化JNKの発現亢進があるかどうかを明らかにすることを継続して行っていく予定である。また、三叉神経節細胞内に発現するNFkBおよびリン酸化MAPkとTRPV1との関係の解析として、各種阻害薬の三叉神経節内連続投与により機械または熱痛覚に変化がおこるかを検索する。さらに、各阻害薬を三叉神経節内に連続投与したラットを用い、TRPV1およびリン酸化TRPV1の発現解析を免疫組織学的手法およびWestern blot法を用いて行い、NFkBおよびリン酸化MAPkがTRPV1の合成に関与するか否かを明らかにする。また、FGを舌に投与したナイーブラットの三叉神経節内にNF-kB acceleratorまたはpERK acceleratorを投与し、TRPV1の発現増加が誘導されるか否かについても、免疫組織学的手法およびWestern blot法により検証していく予定である。
平成28年度の実験計画の進行状況がやや遅れており、本来購入する予定であった抗体および実験器具等をまだ購入していないため。また、実験計画の進行状況の遅れにより、本年度参加する予定であった学会で発表する機会が延期になってしまったため。
実験計画の進行がやや遅れているために、本来購入する予定であった抗体および実験器具等の消耗品費に充当し、実験を進めていく予定である。また、データ収集および解析の遅れによる影響で、学会での発表が平成29年度に延期になってしまったため、平成29年度に報告を行えるように平成29年度助成金とあわせて旅費および学会参加費としても使用する。データ採取及び解析を行うために適正な使用を行いたいと考えている。
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Experimental Neurology
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10.1016/j.expneurol.2017.03.024