ユージノールは歯科領域で殺菌や抗炎症作用を期待して古くより使用されている。申請者はその作用機序を炎症を惹起した歯髄におけるプロスタグランジンE2を中心に報告してきた。ユージノールにはin vitroにおけるシクロオキシゲナーゼ活性の抑制および、in vivoにおける膜結合型プロスタグランジンE2合成酵素(mPGES)-1タンパク質発現抑制を示した。しかしながら、プロスタグランジンE2が生理作用を発現するには合成されたプロスタグランジンが細胞外に放出され、特異的受容体と結合し細胞内シグナル伝達が起こるという一連の過程が必須である。本研究を通じ、申請者は以下のことを明らかとした。 填塞した酸化亜鉛ユージノール練和物より歯髄中にユージノールが移行すること。またそのユージノール量は組織重量当たり0.8~3.6 mmol/gであり、in vitroにおけるシクロオキシゲナーゼの活性阻害濃度と同程度であった。 ラット切歯に窩洞を形成し、酸化亜鉛水練和物を填塞して炎症を惹起した歯髄内ではプロスタグランジンE2 受容体 (EP) のサブタイプであるEP2の発現が亢進していること、また酸化亜鉛水練和物に代えて酸化亜鉛ユージノール練和物を窩洞に填塞することで、その亢進が抑制した。 ラット切歯歯髄より初代培養細胞を調製し、培養細胞に発現するプロスタグランジン合成系酵素を確認した。酸化亜鉛ユージノール練和物を適用した歯髄と同様に、ユージノールはLPSで発現誘導されるmPGES-1タンパク発現を抑制した。 以上のことから、酸化亜鉛ユージノール練和物中のユージノールの抗炎症作用の一端にはシクロオキシゲナーゼ活性の抑制とmPGES-1タンパク質発現の抑制そして受容体の発現レベルでの抑制が関与するものと考えられた。
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