本課題は,音声歯認識をもちいた客観的発語機能評価システムを用いて,部分床義歯のデザインが発語機能に及ぼす影響を詳細に分析した.本システムは微細な障害の出現の検出能力,再現性・客観性に長けており,患者ごとに多様性に富む口腔内の形態や,これまで評価対象となることが少なかった下顎義歯の設計の違いが発語機能に及ぼす影響を詳細に評価することで,より多様な患者側の条件に対応した適切な義歯設計の提案ならびに,生じる可能性のある発語障害の様相についての知見を得ることが目的であった.本研究課題に関連して2本の論文が発表された. 口腔容積と義歯装着による発語機能への影響の関連について,国際誌(Folia Phoniatrica et Logopaedica)に掲載された.本論文では,健常歯列を有する被験者に対し,実験的な中パラタルバーおよび前後パラタルバーを装着し,実験的大連結子非装着時の発語状況と比較し,どの程度不明瞭となるかを評価した.併せて,①被験者の口腔容積,②歯列弓の狭窄度,③口蓋の高さををパラメーター,発語機能の不明瞭度をアウトカムと設定して,①~③の影響を統計評価した.この結果,中パラタルバーの影響は,口腔形態にかかわらず低いが,前後パラタルバーを選択した場合,前方の容積比が小さい,歯列弓の狭窄度が強い,口蓋が高い,という条件で,発語機能の不明瞭度が有意に増加することが示唆された. また,下顎義歯の大連結子と発語機能の関係について,国際誌(Folia Phoniatrica et Logopaedica)に掲載された.下顎義歯の大連結子のデザインは,上顎大連結子と比較すると限定的であり,咬合挙上を伴う義歯で適用される前歯部切縁を被覆する形状の大連結子(主に,咬合橋上治療の際に用いられる)では,特定の音節の生成に障害を生じる可能性が示された.
|