補綴・インプラント歯科治療において,安全かつ確実に骨欠損を再生する骨造成技術が求められている。申請者らは近年,個々の患者から作製可能なiPS 細胞が,新たな歯槽骨の再生医療技術として有用である可能性に着目してきた。一方,この技術を確立するための課題として,iPS細胞の安全かつ確実な分化誘導法の確立および造成骨の骨吸収の抑制が挙げられる。本研究の目的は,ケミカルバイオロジーとナノオーダーのドラッグデリバリーシステムを基盤とした,iPS細胞に適した骨芽細胞分化誘導法を確立し,これにデジタルデザインを応用することにより,造成後における骨補填材の評価をも可能とする骨造成技術を開発することで,新たな実験モデルの確立,さらにはバイオエンジニアリングの確立につなげていくことである。 平成29年度は,前年度にスクリーニングによって同定したiPS細胞の骨芽細胞分化を促進する化合物を用いて,マウスiPS細胞を骨芽細胞へ分化誘導して作製したiPS細胞凝集体をマウス背皮下に移植し,化合物が生体に与える影響について検討を行った。その結果,iPS細胞の腫瘍形成が認められたものの,通常誘導と比較して,iPS細胞の腫瘍化を大きく抑制することが確認された。また,前年度に確立したCAD/CAMシステムにより作製したチタンドームメンブレンおよび既存の骨補填材を用いて,ラット頭蓋骨欠損部における垂直的骨造成を行った。その結果,裂開などの術後の副作用が多く生じるケースが多かったものの,垂直的な骨造成が確認されたケースも認められた。ドームメンブレンのサイズに関する検討は必要ではあるが,今後のCAD/CAMチタンドームメンブレンを用いたラット頭蓋骨欠損における垂直的骨造成モデルは,骨移植材の評価に有用である可能性が示唆された。
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