研究課題/領域番号 |
16K20496
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
宇佐美 博文 大阪大学, 歯学部附属病院, 医員 (30573456)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | ジルコニア / 透光性 / 水熱劣化 / ミストCVD |
研究実績の概要 |
本研究では、シリカ添加により劣化を抑制し、かつ透光性を高め、さらにミストCVD法によるステイン陶材との焼付強さの向上を試みることを目的とし、昨年度は、アルミナを使用せず、シリカを0.2wt%添加した試作イットリア系ジルコニア(Y-TZP)を製作し、かさ密度と透光性を評価した。 今年度は、まず試料の中で最も透光性の高かった1500℃で焼結した試作YーTYPの物性評価を行った。実験にはシリカを0.2wt %添加し、1500℃で2時間係留し焼結した試作Y-TZPとコントロールとして市販高透光性Y-TZPを用いた。各試料を薄板に加工し試料を5群(非劣化群、劣化群4群)に分け、劣化群には134°C水中で最大40時間まで加速劣化試験を行った。その後、万能試験機を用いて曲げ試験を行った。また、各試料に対し、X線回折によりジルコニアの単斜晶割合を測定し、劣化の程度を検討した。非劣化群では試作Y-TZP、市販高透光性Y-TZPともに約800MPaの曲げ強度を有していたが、劣化試験40時間後では,市販高透光性Y-TZPの曲げ強度が試作群と比べて有意に低下した。また、市販高透光性Y-TZPの単斜晶割合は劣化試験40時間後に約80%であったが、試作Y-TZPの単斜晶割合は25%以下であった。これらの結果から、シリカを添加することで水熱劣化を抑制したY-TZPを製作することができたと考えられた。曲げ試験で使用した試料に対し、ミストCVDによるシリカ皮膜の付与を行った。成膜を行った試料に対し、蛍光X線分析装置を用いて表面の組成定量分析を行い、表面および断面の微細構造観察を走査型電子顕微鏡(FE-SEM)にて観察した。表面の組成定量分析の結果、CVD処理後には0.08%のSiO2が認められた。FE-SEMによる表面および断面の観察の結果、処理前とCVD群を比較しても、明確な膜の形成は認められなかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
試作Y-TZPの劣化試験を行った結果、市販高透光性Y-TZPよりも劣化しにくいことがわかり、試作Y-TZPには高い強度と劣化しにくい性質があることが明らかと なった。ミストCVD装置によるシリカ成膜の実験では、表面および断面の微 細構造観察を走査型電子顕微鏡(FE-SEM)にて観察した。表面の組成定量分析の結果、CVD処理後には0.08%のSiO2が認められた。ところが、FE-SEMによる表面および断面の観察の結果、処理前とCVD群を比較しても、明確な膜の形成は認められなかった。 そのため、着色付与の方法をステイン陶材による着色からY-TZPそのものに色調を付与させる方法を考えることが必要と考えられた。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、試作Y-TZPに色調付与を行うため、試作Y-TZP粉末にFeやCoを添加し色調付与の変化が起こるかどうかを評価する。また、前年の実験で良好な耐劣化性を示した高透光性ジルコニアでブロックを試作する。まず、上顎右側第一大臼歯エポキシ模型をフルジルコニアクラウン用に形成し、それを歯科用CAD/CAMシステムのスキャナーによりスキャンしCADソフトウェア上で大臼歯クラウンをデザインする。その後、完全焼結ジルコニアブロックからミリングマシンでクラウンを切削加工する。作製したクラウンの適合性を確認するため、クラウンと支台歯の間に適合試験材を挿入し辺縁間隙量をマイクロスコープで観察する。また、内面に残った適合試験材の質量から内面間隙量を算出す る。そのクラウンを支台歯にセメントで固定し咬合面より万能試験機にて荷重を加え、破壊試験を行う。破壊後の試料を用いてX線回折を行い、クラウンの劣化 について評価する。比較の対象には市販高透光性ジルコニアクラウンを用いる。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初は、ミストCVD装置によりシリカ成膜がステイン陶材の焼き付け強さを向上させる予定であった。しかしながら、ミストCVD装置を使用して実験を行った 結果、ジルコニア試料の表面にシリカ成膜はほとんど観察されなかった。さらに、高透光性ジルコニアだけで製作するクラウンやブリッジにおいてステイン陶材 による着色を行った症例では、長期間の使用によりステイン陶材の摩耗により表面が粗造になり、対合歯を摩耗させる原因となることがいわれるようになった。 また、基礎実験によっても、同様にステイン陶材を使用するよりも表面の研磨のみを行った高透光性ジルコニアの方が滑沢な表面を維持できること(Stawarczyk B et al. J Mech Behav Biomed Mater 2016; 59: 128-138)が報告された。このような臨床所見や基礎実験の結果を考慮して、今回の実験では、以後、ミストCVD装置やステイン陶材は使用しないことにした。 そのため、ミストCVD装置で使用予定であったジルコニアゾルやジルコニア陶材を使用しなかったことから、次年度使用費用が発生した。この次年度使用費用 は、国際誌に投稿の際の英文校正費に充当させる予定である。
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