研究課題/領域番号 |
16K20504
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研究機関 | 徳島大学 |
研究代表者 |
BAE JIYOUNG 徳島大学, 大学院医歯薬学研究部(歯学系), 特任助教 (30759593)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | ボールミリング / リン酸カルシウムセメント / ジルコニア / 強度 / 注入性 / 硬化時間 |
研究実績の概要 |
これまでに用いたボールミリング法の粉砕容器の材質はジルコニア(ZR)であり,粉砕条件によってはβ型リン酸3カルシウム(βTCP)粉末にZR粉末が混入することがわかった。βTCP粉末の粉砕による効果と,ZR混入による効果を分けて評価するため,ZRが混入しない粉砕を試みた。容器とボールの材質として,ZRより耐摩耗性に優れ,硬く,高密度であるタングステンカーバイド(WC)を選択した。ZRの場合と同条件でミリングしたが,セメント硬化体の強度はβTCP未粉砕の場合の10%程度であり,様々な条件で粉砕しても同様であった。粉砕後の粉末を分析した結果,相構成は同じだったが非晶質化が進んでおらず,ZRより粉砕効果が低いと考えられた。ZRよりも密度の高いWCを用いて粉砕効果が低かった理由は解明できなかったが,βTCPの改質に不向きであることから,以降の研究では引き続きZR製の容器とボールを用いることとした。 βTCP粉末へのZR粉末混入の影響を調べるため,粉砕後のβTCP粉末に2種類のZR粉末を添加し,その影響を定量的に調べた。容器とボールが摩耗して得られた粉末(eZR)と,市販のナノジルコニア分散液を蒸発させて得たZR粉末(nZR,平均径100 nm)を1mass%~6mass%追加して,セメント硬化体の強度を測定した。摩耗しにくいジルコニアボールを用いてミリングしたZR粉末に,得られたeZRとnZRを添加したところ, eZRでは2%添加で,nZRでは 1%添加で最大の圧縮強度(CS)が得られ,それぞれ34.7 MPa,38.2 MPaであった。また,eZRでは4%添加で,nZRでは3%添加で最大間接引張強度(DTS)が得られ,それぞれ7.84 MPa,8.32 MPaであった。ZR粉末は強度を増加させたが,粉末の種類による差は認められなかった。強度増加の原因は現在のところ不明である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
容器の材質の変更(ZRからWC),粉砕条件の見直し,ZR粉末の添加,容器に入れるβTCP粉末の量,ボールミリングの回転速度と時間,ZR粉末の添加量,練和液と粉末の混合比(混水比)などの条件を調整することで,射出性,硬化速度,強度のバランスの取れたリン酸カルシウムセメントを開発することができた。 体内に注入後のセメントの硬化挙動を調べるため,擬似体液(SBF)中でのin vitro硬化と,ラット体内でのin vivo硬化の評価を行った。硬化後に圧縮試験を行うため,セメントを管状のシリコーン・モールドに充填後,モールドごとラット皮下に留置し,円柱形の圧縮試験片の形状を維持した。未粉砕βTCPセメントは,硬化後に皮膚組織と癒着していたが,改質βTCPセメントには癒着は見られなかった。改質βTCPセメントは硬化が早く,軟組織が侵入する時間の余裕がなかったと考えられた。未粉砕βTCPセメントの強度は著しく低かったが,改質β-TCPの強度はin vitro,in vivoいずれも充分な強度を示した。ただし,大気中で硬化させたセメントよりは低かった。改質β-TCPは硬化が速いため,体内あるいはSBF中で周囲へのリン酸イオンの移動が起こりにくく,HAPが析出しやすいためと考えられた。 これまでに開発してきたセメントペーストを新規購入した3Dプリンタで射出成形できるか,基礎的な評価を行った。射出圧力を注入性試験と同じ100 MPaとして,射出可能なノズル径を評価した。その結果,注入性試験で使用してきた内径2 mmの注射器のノズルよりもはるかに小さい,内径0.4 mmのノズルで射出が可能であることを確認した。これまでに,点や線,四角や円形などの基本的な図形を積層することに成功した。
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今後の研究の推進方策 |
セメントペーストを高く積層するにはペーストの粘度が高く,迅速に硬化する必要がある。そのためには混水比を下げるのが効果的だが,流動性が低下して射出が困難となる。また,混水比が小さいと,射出時に加圧する際,チクソトロピーにより粉液分離が生じ,射出性が低下する。そこで,練和液の粘性を高めるため,粘度の高い有機成分を添加し,粉液分離を抑制しつつペーストの粘度を上げる。添加する物質としてはコラーゲンやゼラチンなどの生体由来成分を想定している。添加量や種類を変化させた試作セメントの特性を評価し,射出性,強度,硬化時間のバランスが取れたセメント粉末と練和液の条件を明らかにする。 また,硬化時間の短縮ため,セメント粉末をβTCPより溶解性の高いα型リン酸3カルシウム(αTCP)やリン酸4カルシウム(TTCP)に変更して,その影響を調べる。硬化後はいずれも水酸アパタイト(HAP)となることから強度の向上は必ずしも期待できないが,高溶解性であることからHAPへの転換が早く,硬化が早くなる可能性がある。βTCPと同様にボールミリングを用いた改質を行うが,ミリング条件については最適化が必要となるかもしれない。 3Dプリンタで作製したセメントブロックを,ウサギの骨欠損部分に埋植し,飼育しながら分解吸収と骨再生の過程をマイクロX線CTで観察し,評価する。犠死後,埋入部を周囲組織とともに摘出,固定し,再度CTで撮影し,生前のCTデータと比較する。また,組織切片作製後,染色し,光学顕微鏡で新生骨生成量と炎症反応について評価する。なお,セメントブロックに含まれるZR微粒子が,分解と共に放出されることを想定し,エネルギー分散X線分析(EDX)を用いてセメント周囲の組織の元素分析を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
参加を考えていた海外学会(International Association for Dental Research Congress@カリフォルニア)への参加を見合わせたので、旅費・日当・参加費が不要となったため。
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次年度使用額の使用計画 |
元々想定していた海外学会(European Siciety for Biomaterials@アテネ)に加え、別の海外学会(Mechanics of Biomaterial and Tissue@ハワイ)に参加する予定である。
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