前年度に引き続き,β型リン酸3カルシウム(βTCP) 粉末に添加するジルコニア(ZR)粉末の種類と量が,リン酸カルシウムセメント(CPC)硬化体の強度に及ぼす影響を調べた。ZR粉末が混入しにくい容器で粉砕したβTCP粉末に,2種類のZR粉末(ZR粉末が混入しやすい容器由来の粉末(eZR),市販のナノジルコニア分散液から得た粉末(nZR))を1mass%から6mass%の範囲で添加して再度粉砕し,CPC原料とした。作製した2種類各6添加率のZR粉末添加CPC硬化体は,添加率0mass%の硬化体より圧縮強度(CS),間接引張強度(DTS)ともに増加あるいは同等の値を示した。また,CS,DTSともに本実験の添加率の範囲内で最大値を示し,ZR粉末添加量には最適値が存在した。 ZR粉末が混入しやすい容器で粉砕したβTCP粉末を用いた硬化体の強度の最大値と,上記2種類の試料の最大値同士を比較すると,nZR試料はCS,DTSともほぼ同等の値を示したが,eZR試料ではCSが約90%の値にとどまった。また,破断面観察の結果,nZR試料の破断面は相対的に緻密で,eZR試料の破断面には気孔由来と思われる凹凸が目立った。 CPC硬化過程におけるZR粉末の役割としては,ハイドロキシアパタイト(HAP)の析出促進と,その結果としてHAP結晶の緻密な凝集構造の形成が考えられる。今回用いたeZR粉末は,ZR粉末が混入しやすい容器で粉砕したβTCP粉末を酸洗後,濾別した残渣であり,もっともサイズの小さい粉末が回収されていない可能性が高い。一方,nZR粉末は市販のナノ結晶であり,eZR粉末より小さいサイズの粉末が多いと推定された。その結果,同じ重量でも,nZRは結晶数が多く,HAP結晶の析出を促進し,結晶凝集体が緻密化することで,高強度化すると考えられた。破断面の気孔の多寡は,その反映と考えられた。
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