研究課題
歯科補綴学領域において、重度の歯周疾患に起因する高度顎堤吸収は補綴装置による機能回復を困難にさせるため、支台歯周囲の歯周組織の状態が補綴治療の質と予後に大きく影響を及ぼす。この困難な状態に対して、従来は術者の技術や歯科材料によって対応してきたが、近年では組織・細胞を用いた再生医療も盛んに研究されている。しかしながら、歯周組織再生における最適な細胞源は明らかになっていないため、本研究では、脂肪組織中に多量に存在する成熟脂肪細胞から脱分化した細胞(DFAT細胞)が歯周組織再生治療の新たな細胞源として有用であることを明らかにすることを目的とする。成熟脂肪細胞は、脂肪組織中の間質細胞より多いうえに、均一かつ高純度な間葉系幹細胞が多く調整できることが大きな利点であり、骨髄や歯根膜由来の幹細胞よりも、侵襲度や採取量において有利である。また、DFAT細胞は、線維芽細胞に遺伝子導入して樹立するiPS細胞と異なり、遺伝子導入や特別な試薬・手法を用いることなく脱分化させることが可能なため、高い有用性が期待される。すでに申請者はDFAT細胞のラット歯周組織再生能の検討を行っており、その結果、DFAT細胞を移植したグループは高い硬組織再生量を示していた。平成28年度ではDFAT細胞がセメント質、歯根膜、歯槽骨に分化する能力があるかどうかは明らかにするため、蛍光標識したDFAT細胞を歯周組織欠損部に移植し、細胞の局在部位を解析した。その結果、DFAT細胞は新生セメント質、新生歯根膜、新生骨内に散在しており、DFAT細胞自体が組織に分化することが示唆されたが、細胞数自体はわずかであった。得られた知見を英文として投稿し、採択された (Front Physiol, 7:50)ため、現在はミニブタの脂肪組織からDFAT細胞を調整し、下顎第二小臼歯に作製した欠損モデルに細胞移植を行っている最中である。
2: おおむね順調に進展している
研究当初に立案した平成28年度中に論文採択がされたことならびに平成29年度に立案した研究計画に組み込んでいた実験項目を一部始めることができた。現在はミニブタを購入し、下顎第二小臼歯の根分岐部に歯周組織欠損を作製したところであり、おおむね順調に進展していると考えられる。
平成29年度にはブタ歯周組織欠損モデルの作製とDFAT細胞移植による歯周組織再生能の検討を行う予定である。具体的には、吸入麻酔下にて、ミニブタに対し口角から下顎角にわたり除毛および術野の消毒を行う。滅菌済みの器具にて皮膚切開後、歯肉を剥離・翻転させ、露出させた左右下顎骨の第2小臼歯頬側歯根部をインバーテッドバーにて注水下で縦5mm×横4mm×深さ3mm窩洞を作製する。4週後、印象材を除去し、窩洞を清拭後、前述した方法で調整した1×106のDFATをコラーゲンスポンジに播種する。細胞を播種したコラーゲンスポンジを欠損部に移植した側を実験側、コラーゲンスポンジのみを対側に移植したものをコントロール側として双方にメンブレン膜で被覆し、縫合する。移植12週後、プロービングデプスおよびアタッチメントレベルの変化を測定する。全身麻酔下にてX線撮影を行い、硬組織の再生過程を評価する。移植した下顎骨を摘出し、10%中性緩衝ホルマリンで固定後,通法どおり脱灰・脱水・透徹処理を行い、パラフィン包埋を行う。試料を7μmに薄切して、ヘマトキシリン・エオジン染色、アザン染色、ピクロシリウスレッド染色を施し、組織学的観察による歯根膜の幅径、主繊維の太さや量およびセメント質の幅径を測定して、前臨床試験のデータを集積する。得られた成果は日本大学産官学連携知財センター(NUBIC)を通じて知財化を進め、最終的に学会発表および論文投稿を行い、革新的な細胞治療の実用化を加速させたい。
計画通り使用したところ、端数が生じた。
当初の計画通り、細胞培養関連、細胞の特性を解析するための抗体試薬と移植用動物のほか培養関係の消耗品(ピペット、グローブ、チップ)などの他に国内外の学術大会の旅費、英文校正料、投稿料および別刷代を使用計画として積算している。
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J Oral Sci
巻: in press ページ: in press
Front Physiol
巻: 7 ページ: 50
doi: 10.3389/fphys.2016.00050